「そうそう、には事あるごとに嫌がらせされてた気がするんだよね・・・あ、出会った頃からそうだったっけ?」

「言い掛かりです。私は単に、ハルの味方だっただけですよ」

「・・・それを言われると耳が痛いな。でもホントにそれだけ?俺ずっと嫌われてるんじゃないかって思ってたよ」





ふと、エレベータが上へとついたあたりから丁度話題だった彼女の気配とこの場所へと鎮座する彼の気配を感じて、ふと恭弥は気配を消した。

そんな恭弥の行為に驚いたものの、ハルも倣って気配をできる限り消した。



そうして、扉へと近づいた瞬間に聞こえた会話に、ピクリと恭弥が眉を動かした。








「好き、ですよ。・・・・・・恭弥の次くらいには」

ポツリと、どこか気恥ずかしそうな口調で聞こえた言葉に、頭の中の「休ませてあげようかな」という気持ちがどんどんと消えていく。

交わす会話とその後に聞こえた笑い声で、そういう感情はないと分かっていても、なんだか。




「と、いうわけで。貴方がハルに見捨てられたら一晩位慰めてあげますよ?」

「縁起の悪いこと言わないでよ・・・・って、もう止めよう。こんな話恭弥に聞かれたらどんな事になるか」

「・・・・大袈裟ですねえ。一晩慰めるって単に自棄」



酒、と続けようとしたのだろう。

それは恭弥も完全に理解していた。



けれど、なんだか。

激しくムカついた。






「お、おお、女の人が自分を安売りしちゃダメですよーーーー!!!」




恭弥の中のフラストレーションが振り切れそうになった瞬間に、ハルが叫びながらに飛びついた。




「ハ、ハル!?」

ぎゅうっとに抱きつくハルに綱吉は酷く慌てたが、ハルの視線には入っていなかったらしい。



「え、えっと、冗談よ?ハル。私が言おうとしたのは、自棄ざ」





「・・・・・・・・・・・・・・ふぅん」




「「――――っ!?」」

「面白そうな話、してるね。君達」

ハルが騒ぎ立てている間に、恭弥はするりと綱吉の背中にたった。

ギリギリと音を立てそうな様子で振り返った綱吉は、その姿に顔を青くする。



そこには、薄ら寒い笑顔を浮かべる、恭弥の姿があった。




ヒィっと震えるハルを放置して、は何とか自分を取り戻す。

「・・・っちょ、今、本気で気配消してたでしょう!」

「気付かないくらい夢中で話してたんだ・・・・。随分楽しそうだったね、?」

「え、あ、じゃなくて。とと取り敢えず何処から聞いてた!?」

「嫌がらせがどうとかいう処から」

恭弥は内心楽しそうにを見ていた。



よほど慌てているのか、動揺というか心の全てが表情に出ていた。

多分、それすら気付かないほどに疲れているのだろう。



けれど、それを気遣う気持ちは、恭弥の中には無かった。



まさに、ハルで言う、性根からのSが顔を出したのである。




「・・・っまあ、その落ち着いて。きっとほら、恭弥何か誤解してるってば」

ダラリと汗を流し、は顔を逸らした。



「落ち着いたほうが良いのは君の方だと思うけど」

「いやだから目据わってるって!」



彼女がそんなつもりで会話をしていたのではないということは、ちゃんと理解していた。

あれほどまでにハルにベタボレな綱吉が相手なのだから、もちろん分かっている。






けれど、と恭弥は目の前のを睨んだ。









理解はしよう、だけど許しはしない




( 第一そんな可能性など、こんな明るい会話からは決して見つかりはしないのだから )