此れは、私の、獲物。
嗜虐の英雄
「何だぁ?こいつら」
「あ、私のお客様です」
「客って・・・・・」
リボーンに引き続き、山本にまでこんな所を見られてしまうとは。
私は嘆息して男共を見やった。
目の前で喚いている男二人に・・・・後ろの影にひとり、か?
そこまで確認して、私は直ぐに山本を追い払うことにした。
「いつもの事ですので。こちらの方は気にせずどうぞお仕事に戻ってください」
「っつってもよ、何か穏やかじゃねーし・・・」
「すぐ終わりますよ」
「・・・さん、あのな」
・・・・く、しぶとい。
彼元来の優しさか、私一人を怪しい集団の前に放っていくのは主義に反するらしい。
・・・まあ、私の実力とかそういった情報が伝わっていないのもあるだろうが・・・
とにかく此処から離れてもらわなければならない。
なぜなら、山本は幹部だ。それも上位の。
彼を見張りに使えるのは、ボスだけだろう。つまりは其の建物の中にはボスが居るという事になる。
今すぐに山本をボスの所に返さなければ、異変を嗅ぎ付けて誰かが様子を見に来てしまう。
・・・・・事を大きくしたくない。
万が一、それを知ったボスが圧力をかけて『ウォーミングアップ』が来なくなった―――なんて事になれば、私が困る。
「あの、本当に大丈夫ですから――」
「何無視してやがるテメェ!」
「『Xi』!覚悟しやがれ!!」
「・・・・やかましいわね、酷いスラングで喚かないでくれる?」
「っ貴様・・・!」
ゆっくり喋る事も許されないらしい。
台詞を遮られた私は思わず挑発してしまい、余計に山本を帰り辛くさせてしまった。
いきり立つ男共を見て、山本はその瞳を鋭く光らせる。
「おいおい、一人に対してそれはないだろ。マナーってもんがなってないぜ」
「な・・・野郎、馬鹿にしてやがるのか!?」
「テメェもやるってのか!受けて立つぜ!」
「ほら、見ての通り相手の力量すら見抜けない小物ですし、私に任せて頂けませんか?」
山本に自ら刃を向けようとする愚か者共。触らぬ神に祟り無し、って言うのにねぇ。
私は小首を傾げて彼にお伺いを立てた。
・・・相手との力の差を見抜けない程弱い者達なのだから、彼自身の手を煩わせることはない、と。
山本は少し考えるような素振りをした後、苦笑した。
どうやら任せてくれるらしい。
私はほっと息を吐いて笑い返した。・・・・・・・が。
「ちょっと、何してるわけ?何分経ったと思って・・・・・・、?」
・・・・・遅かった、らしい。
「げ」
「人の顔見るなりそれ?失礼極まりないね」
「・・・じゃあ悲鳴でもあげろって?」
「それでもいいけど」
「いいのか!?」
珍しくぴっちりとスーツを着込んだ、雲雀恭弥。
・・・駄目だ、コイツ相手では言い訳が立たない。
どうやって切り抜けようかと思案していると、恭弥は不思議そうな顔をして私を見た。
「何で此処に君が居るわけ?」
「や、偶然。夜の散歩してたら声掛けられたの」
「こんな夜中に逢うなんて驚いてさ。暇だったし、話してたってわけで」
「ふぅん、そう。・・・で、ソレは?」
「それってどれの事」
分かっていながら、私は誤魔化す。
まあそんな努力は無駄なわけですが。
バレバレな私の態度に突っ込むわけでもなく、彼は表情すら変えずに言葉を続けた。
「君の後ろに居る頭の悪そうな連中」
「ああ、私の後ろに居る頭の悪い連中の事ね」
態々言い直したのは、勿論煽る為である。
面白いように騒ぎ出す男共を尻目に、私達は会話を続けていた。
「で、何」
「私のお客様。私を殺すおつもりだそうで、丁重に御持て成ししようと思っていたところよ」
「ワオ。楽しそうだね」
「・・・あ、駄目だからね、恭弥」
「・・・何が」
「『此れ』は、私の――よ」