私は戦う。

 

それが、誰であろうとも。

 

 

嗜虐の英雄

 

 

 

「なんだ。つまらないね」

「あら。てっきり横取りされるのかと思った」

「・・・・そこまで飢えてないよ」

「そうなの?」

 

 

 

私が牽制すると、驚いた事に恭弥はあっさりと殺気を引いてくれた。

今回は多少譲らないと駄目かと覚悟して一応言ってみただけだったので結構意外だ。

 

昔はあんなにがっついてたのに、等と感心していると、山本が笑いながら暴露した。

 

 

 

「コイツ、三日前に仕事で大暴れしたとこだからな。満腹のはずだぜ」

「成程。道理で」

「五月蝿いよ」

 

 

 

っと。何暢気に喋ってるんだ私は。のんびりしている暇は無い。

 

多分順番から言って次かその次には部下思いのボスが来てしまうだろう。

取り敢えずこの二人にはお引取り願わなければならない。

 

 

 

「それじゃ、状況を理解してもらった所で。どうぞ仕事に戻ってください」

「何で」

「邪魔」

「・・・・・・ふぅん?」

「いえ、冗談でしたすみません」

 

 

 

だがやっぱり恭弥は手強かった。

その場の空気を読む等という高等技術は成人して暫く経つ今でも身に付いていないようだ。

 

・・・そんな事は最初から分かっていたけれども。

 

 

こんな風に私達が内輪でごにょごにょやっている間、勿論相手は放置されたままで。

 

 

 

「貴様ら・・・!とことん俺らを愚弄する気だな!?」

「先刻から黙って聞いてりゃ、ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」

 

 

 

当然、逆上した二人はもう待ちきれないとばかりに襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

―――私ではなく、私の一歩後ろに居た、山本と恭弥に。

 

 

 

 

「はぁ!?」

 

 

どうしよう、こいつら馬鹿だ。

普通に考えても女である私に向かってくるのが定石だろう。

 

山本に関しては人が良さそうだから勘違いしても・・・・うん、百歩譲って赦す。

 

 

しかしだ。

 

よりによって、よりにもよって。

 

 

何で恭弥に向かうんだ!?見た目からして超危険人物だろうに!

 

 

 

そう私が驚いてるうちに、事は終わってしまった。

背後で凄まじい悲鳴が聞こえたから。きっちり二人分。

 

至近距離で聞くと結構ウザい・・・・じゃなくて。

 

 

 

「・・・・それ、私のだって言ったのに・・・・」

「あ、わり。つい条件反射で」

「・・・正当防衛。」

 

 

 

まあ、彼らに殺されてしまったのはまだいい。

襲い掛かったのは向こうなのだから、その代償は払わねばならない。

 

・・・・だからって何でそういうやかましい殺し方しか出来ないんだ。特に恭弥!

 

 

 

「でもよ、さん。あんたこういうプロの奴らにも恨みかってるのか?」

「え?・・いえ、そういうわけではないんですけど」

「―――確か、賞金が懸けられてるんだったな」

 

「ええ、そうなんです賞金が・・・・・・・・・って」

 

 

 

会話に違和感無く入り込んだ声。

 

・・・私に賞金が懸けられていると知っているのは、ボンゴレ内では一人しか居ないはず。

と同時に気付く複数の気配。

 

 

(・・・・私の数々の努力は一体・・・・)

 

 

「・・・・・こんばんは、リボーンさん。それにボスと獄寺さんも」

「派手にやったな」

「私じゃありません」

「あれ、さん?何してるのこんな所で」

「・・・襲われてます」

「うお!何だこいつら!?」

「殺し屋です。もう死んでますけど」

 

 

 

掛けられた言葉に私が一々応えると、更に彼らは騒ぎ出した。

どうしてこんな事に。・・・だがもう手遅れだ。問答は意味を成さない。

 

私は気持ちを切り替えて、この騒ぎでも動かなかった最後の一人が居るであろう影に視線を向けた。

 

 

 

「言っておきますけど、邪魔しないで下さいね」

さん・・・・」

 

 

 

気遣わしげに掛けられた声を無視して、私は一歩踏み出す。

相手は暗がりに居てよく見えないが・・・体は大きそうだ。

向けられているのは静かな殺気。どうやら先程の二人とは趣が違う。

 

私が戦闘態勢に入ったことを悟ったのか、それはゆっくりと暗がりから姿を現した。

 

 

現れたのは、2m程もある大男。

 

 

 

「貴方は・・・・・・」