それでも何時までこんな事が続けられるだろう、とふと不安になる。

 

この世界には、私よりも強い人間は沢山いるのだから。

 

 

嗜虐の英雄

 

 

 

「はい、おしまい」

 

 

ほんの少し重苦しくなった空気を振り払うように、私は手を叩いて戯けてみせる。

ボンゴレの面々はそれでハッと気付いたようにこちらを見た。

 

揃いも揃って何を呆けているのだろうか。

 

 

 

さん―――」

「あ、ちょっと待ってください」

 

 

 

ボスが何かを言いかけたが、私は直ぐにそれを遮った。

色々聞きたいことがあるのだろうが、話は後。

 

まだ後始末が残っている。

 

 

私は徐にポケットから携帯を取り出しある場所に連絡を取り。

ワンコールで出た相手にここの場所と数とを伝え、礼を言ってから通話を終わらせた。

 

携帯を仕舞いながら体ごと彼らに向き直ると、ボスの隣にいる獄寺が訝しげな顔をして私を見ている。

 

 

 

「今のは?」

「掃除屋に連絡してたんです。いつも死体の処理をお願いしてるんですけど・・・いけませんでしたか?」

「・・・あ、いや・・・そうなのか」

「ええ、一時間もすれば到着するかと。・・・・仕事は確実なので、重宝してますよ」

 

 

 

死体の髪の毛一本血の一滴すら残さない後始末のスペシャリスト、掃除屋。

ただし、請け負う人数は五人まで。一人増えるごとに料金が倍になるが、私の様な賞金首にはとても使い勝手が良い。

 

とはいえ金で動く人間だ。こちらとしても用心に越した事はない。

 

追跡不可能な凶器を使う、決して指紋を残さないなど、気をつけるべき事はいくらでもある。

賞金首が掃除屋を雇うには、かなりのリスクがかかるのだ。

 

 

 

「ねぇ、さん」

「はい?」

「賞金って、どういうことかな」

「えぇと、そのままですけど。私賞金首なんで」

 

 

 

直球ストレート。

何の前置きも無しにボスは核心に触れてきた。しかも思いっ切り眉を顰めて。

 

 

(・・・このままじゃ、ホントに潰されちゃうかも・・・)

 

 

 

「ハルが言ってたじゃないですか、私の所為で同業者の収益が下がりっぱなしだから命を狙われてるんです。

―――でも、命を狙われてるって点から言えば、皆さんと大して変わらないと思いますけど」

 

「賞金がつくつかないじゃ全然違うよ」

「一般向けの賞金首ですから、雑魚しか来ません。来たとしてもこの程度のレベルが限界ですよ」

 

 

 

だから物足りないなどと言おうものなら、怒られるかもしれない。

 

それでも彼らは本当に良い刺激になる。弛みそうになる自分を、いつも叱咤する材料になってくれる。

私にとってプラスである以上、賞金を用意した大元を叩こうとは思わなかった。

 

ボスの、きっと心配して言ってくれているであろう言葉を悉く跳ね除けて私は笑う。

 

 

すると今まで黙っていた恭弥がぽつりと零すように聞いてきた。

 

 

 

「・・・・賞金って、いくら」

「え。・・・あー、突き出さないなら、教えてあげても良いけど・・・」

「突き出して欲しいなら幾らでも咬み殺して」

「わかったわかったってば!ああもう・・・・えぇと今は確か・・・殺せば2500万ユーロで・・・・・

そうそう、生け捕れば6000万ユーロ・・・だったかしら」

 

 

 

最も、これより高額な賞金首は山のようにいる。マフィアの世界では有り得ない程高額な金が飛び交うからだ。

 

しかし、一情報屋にこれだけの値がつく事は滅多にないのも事実。

 

 

 

 

「生け捕り?・・・ふぅん。『Xi』の情報分、ってわけ」

 

「ご名答。とはいっても、もう生け捕ろうなんて人間はいないけどね。最初の数年で懲りたみたい。

・・・・今は全員、最初から殺しにくるわ」

 

「っそれ、あぶねーんじゃねーの?いくらさんが強いっつっても・・・いつも狙われてちゃ身がもたねえ」

「山本さん・・・・」

 

 

 

多分、ここにいる人間は、多かれ少なかれ私のことを気にかけてくれているらしかった。

 

大元を締める事は簡単で、賞金首という悪評を取り除くのもそう難しくは無い。

だけど、この命のやり取りがなければ私は直ぐに楽な方に逃げてしまう気がする。

 

この世界で生きていくには、そんな事では駄目だ。

 

 

戦い続けなければ。

 

 

 

「大丈夫ですよ。大抵の人間は東洋人の見分けなんてつかないですから」

「・・・・だったら、こいつらはどうなんだよ」

「あぁ、多分店からつけられたんだと思います。――あの店は、『Xi』の行きつけとして一時期有名になったことがあって」

 

 

 

マスターの店ではない。

だが、四番目に好きな店だ。銃弾が毎晩飛び交うという危ない店でもある。

 

マスターは完全に中立を宣言している為巻き込む事は出来ない分、その店で色々暴れる事も、ある。

 

 

 

「それ、わざと?」

「あら何の話?恭弥」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

睨みつけてくる彼。

だけどこれを譲歩する気にはならない。

 

私はこれからも、自分を餌にして適当に吊り上げた者達と戦うことを選ぶ。

 

 

 

「売られた喧嘩は、買う主義ですから」

 

 

 

ボンゴレの面々を見据えてはっきりと宣言した。

 

私を殺そうとするなら、容赦はしない。

惑わない。迷う事もない。・・・・それはきっと、私が生きている証になる。

 

びしりと決めた私に対して、ボンゴレ十代目ボス&幹部は。

 

心底呆れたとでもいうように、深い深いため息を吐いた。恭弥を含めて全員である。

 

 

・・・・・・・失礼な男共だ。デリカシーの欠片も無い。

 

 

 

 

 

 

 

まあ何にしろ理解はしてくれたようなので、後始末は私に任せてどうぞお帰りくださいと言おうと思ったその矢先。

 

リボーンが嫌に楽しげな笑みを浮かべて、私の名を呼んだ。

 

 

 

「・・・

「・・・・・・・・・。なんでしょうか・・・?」

 

 

 

なんかこの笑み、何処かで見たことあるような。

 

物凄く嫌な予感がして必死で記憶を探る。確か、そう、ボンゴレ入りが決定した後の・・・・

 

だが努力も虚しく私が答えに辿り着く前に彼は次の行動に移ってしまった。

微かな、ほんの微かな音を立てて黒光りのする銃がリボーンの手に。

 

それは寸分の狂いもなく私の額ど真ん中に照準を合わせられている。

 

 

 

「え、あの、リボーンさん」

「売られた喧嘩は、買う主義なんだろ?」

 

「、げ」

 

 

 

まさかまさか。

 

あの時の続きをしようとか言うんじゃないだろうな。その、適性検査とかいう奴を。

いきなりのことに慌てまくった私は周りに助けを求めるが、皆面白そうに見物しているだけ。

 

 

そしてリボーンの笑みが更に深まるのを目撃して更に逃げ場が無くなった。

 

 

 

「・・・死ね、

「――っ!!」

 

 

 

真夜中の街に、鋭い銃声が一発、響いた。