もし私が、この先も此処に、・・・ボンゴレに、居る事が出来るのなら。

 

何時か必ず。

 

 

嗜虐の英雄

 

 

 

「何の真似かな、『雲雀君』?」

「その呼び方、止めろって言ったはずだけど」

「いつの話?それより質問に答えて欲しいわね・・・・どういうつもり?」

 

 

 

恭弥の殺気を感じた瞬間、体が勝手に動いていた。

 

乾いた金属音が耳元で響いて初めて、彼に攻撃された事を知った。

逆手に持ったナイフが、肩にめり込む寸前のトンファーを受け止めている。

 

・・・殺気に反応するようにはなっているのだ、私は。

 

 

 

「僕と君、どっちが強いか知りたくなってね」

「え」

「悪いけど、本気でいかせてもらうよ」

「ちょ、こら待っ・・・恭弥!」

 

 

 

その台詞から間髪をいれずに第二撃が来た。咄嗟に避けて距離を取ろうとしてもすぐさま追いかけて来る。

 

私は何が何だがさっぱり分からなかった。

別に恭弥のことは全部わかる、なんて思ったことは無い。・・・・それでも全く理解出来ないのは初めてだった。

 

ただひとつわかるのは、恭弥がかなり本気であるということだけ。

 

でも何故?・・・・考えを纏めようにもリボーンとは違って断続的に攻撃を仕掛けてくるものだから、

それに対応するのに意識を囚われ、物凄い殺気に体が動いてしまう。

 

 

 

そうして私は無意識のうちに、どんどん恭弥との戦闘に没頭していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、取り残されたボンゴレの人々は。

 

 

 

「互角・・・ですかね、十代目」

「うん、力では押し負けてるようだけどね。先刻から全然スピードが衰えないから互角に闘えてるんだ」

「雲雀の奴、楽しそうな顔しやがって・・・・」

 

 

 

他人事、といった感じで鑑賞していた。実際他人事なのだから仕方ないのか。

特にボスは心の中での動きを逐一分析し、時折考え込んでいる。

 

 

 

 

「・・・どうしたんだ、ツナ?」

さんって・・・左利き?もしかして」

「・・・右の攻撃、左より微妙に精度が落ちてるな」

「そうだよね・・・・それとも、怪我してるのかな」

「え、そうなんですか?」

 

 

 

ぼそぼそと話をされているのに気付いているのかいないのか。

と雲雀は相手だけに注意を払い、未だに戦い続けていた。

 

だが流石にこれ以上続けて誰かに目撃されたらマズイと思ったのだろう。掃除屋とやらも来る。

雲雀がに仕掛けてから丁度三十分が経過した頃、漸くボスが制止の声を上げた。

 

 

 

「雲雀さん、そろそろ帰るよー」

 

 

 

間。

 

 

 

 

「・・・・聞こえてないみたい」

「寧ろ無視してんじゃね?あれは」

 

 

 

この距離で聞こえてないはずは無いだろうに、雲雀は此方を見ることはなかった。

それに加えの方がこちらを向いて何事かを言おうとしたようだが、雲雀の猛攻に遭いそれは叶わずで。

 

その状況を見て、ボスはぼそりと呟いた。

 

 

 

「・・・・。じゃ、置いていこっか」

「「は?」」

「そうだな。・・・・おい雲雀、今日はもう直帰していーぞ」

「ごゆっくり〜」

 

 

 

驚く山本と獄寺を無視して、ボスとリボーンはさっさと話を纏めたちに声を掛けた。

 

流石に今回はからの反応さえもなかった。

 

 

 

「今度はホントに聞こえてないみたいだね」

「ま、あの激しさじゃな」

「・・・・じゃ、じゃあ帰りますか、十代目!おい山本、運転しろよな」

「お、おう・・・・?」

 

 

 

そんなこんなで、激しい打ち合いをしている二人を放って、彼らはボンゴレへと帰ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無心。

もしくは、没我の境に入る―――

 

 

私は当にそんな状況の中、闘っていた。他の事など、考える暇も無く。

勝つも負けるも気にする必要が無いそれは、正直、楽しかった。

 

これが恭弥の、恭弥なりの慰め方なのかもしれないと思ったのはもっとずっと後のこと。

今の私は『たたかうこと』しか頭になくて、それ以外のことはどうでもよかった。

 

 

―――もっとこの時間が続けば良いのに、とさえ思っていた。

 

 

 

それが壊されたのは近づいてくる気配に気付いた時。

気付いたのは私の方が早かったらしく、突然動きを止めた私を恭弥は怪訝そうに見てきた。

 

私は幾分晴れやかな気持ちで彼に笑いかける。

 

 

 

「残念だけど、時間切れのようね。多分掃除屋」

「・・・・・・・そう」

「顔見られる前に帰りましょう。・・・っていうか、置いてかれてるし」

「どうでもいいけど」

「いいのか・・・」

 

 

 

私も恭弥も、殺気を引っ込めて武器を仕舞う。

心の中のもやもやはすっかり影を潜め、残ったのはただの疲れだけ。それも不快なものではなかった。

 

死体を残しその場所から離れながら、私はふと思いついて恭弥に悪戯っぽく聞いてみた。

 

 

 

「恭弥、晩御飯食べた?」

「まだ。・・・・何」

「奢って。迷惑料」

 

「・・・・・・・・・・・君、食べたんじゃないの」

「もう消化した。まだ食べれる」

 

「太るよ」

「やかましい。黙って奢れ」

「・・・・・・・・」

 

 

 

否定しない所をみると、どうやら本当に奢ってくれるらしい。機嫌もいつの間にか直ったようだ。

闘って、恭弥もすっきりしたのだろうか。

 

そうして私達は―――連れ立って、夜の街に溶け込んでいった。

 

 

朝はまだ、遠い。

 

 

 

 

 

 

 

私の進む道を塞ぐものは、誰であろうと何であろうと赦さない。

 

戦えるようになってみせる。

それがどんなに強大なものであっても。勝つ見込みがゼロに等しくても。

 

 

だから私は戦うことを止めたりしない。

 

 

 

 

絶対、に。

 

 

 

 

-Fin-