背中を預けるということ。

 

背中を預けられるということ。

 

 

 

その音が終わるまで

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

 

私は呆気にとられ、咄嗟に言葉が出なかった。

 

毎度毎度の事ながら、私はボス直々の呼び出しを喰らい『Xi』としてボンゴレ最上階に居た。

私がボンゴレに馴染んでいくにつれ、『Xi』として動くことが多くなっている。つまりは扱き使われているという事だが。

 

今回、少しすまなそうな表情のボスから依頼された物件。何とそれは、“『破壊屋』雲雀恭弥の仕事”への協力だった。

 

 

―――いやあの、私これでも情報屋なんですけど。

 

 

 

 

「やっぱり・・・無理、かな?」

「いえ無理というわけでは」

 

 

 

 

今更そういう事に呵責を感じるような繊細な神経は持ち合わせていないし、協力できるほどの実力はあると自負している。

まあ一応、常識として情報屋に頼む事じゃないだろうとか他に適切な人間が居るだろうとか思いはするけれども。

私の事はどうでもいい。考えるべきは協力する相手である、雲雀恭弥のことだろう。

 

当の本人である恭弥がそれを――私が一緒に仕事をする事を――受け入れているのかどうかが問題だ。

 

一匹狼だし・・・自分の楽しみともいえる仕事を他の人間と協力してやる?そんなの出来るのかアレに。

 

 

 

(あ、でも恭弥って部下が居たような・・・?でもそれとこれとは別か)

 

 

どうせメインは自分一人で片付けているに違いない。現場においては部下なんて居ても居なくても同じじゃないか?

そう考えを巡らす私を他所に、ボスは説明を続ける。

 

 

 

 

「今回少し時期が悪くてね・・・皆、俺も含めて別の仕事抱えててこの件にまで手が回らないんだ」

「・・・・恭弥はこの事、了承してるんですか?」

「大丈夫。了承してもらうから」

 

 

 

 

にっこりきっぱり言い切るボス。この相手、雲雀さん一人じゃ心配だし・・・等と色々理由まで付けて。

 

というか、ボスがこう言った時点で既にそれは決定事項なわけで。

逆らっても無駄という事だ。

特に断る理由もないので、二つ返事で私は快諾した。・・・恭弥の仕事姿を見たかった、という所為もあるが。

 

 

 

 

「では恭弥の説得の方、よろしくお願いしますね」

「了解。・・・それとこの資料渡しておくから頭に入れておいて・・・ってこれ、『Xi』に言う事じゃないか」

「ええ、当然です」

 

 

 

そうそう、情報屋『Xi』に向かってそれはないだろう。

私は薄く笑って差し出されたそれを受け取る。今回のターゲットの資料、だろうか。

 

ボスはそれを確認した後、私に退出の許可を出した。

 

 

 

さん、頑張ってね。でも無理だけはしないように」

「・・・はい、ボス。失礼します」

 

 

 

ボスの励ましの言葉を背に、私はその部屋を出て行った。

 

 

(・・・恭弥と仕事、か)

 

それはちょっと―――否、かなり楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はそのまま情報部情報処理部門に帰った。就業時間中なのでまだ仕事が残っているのだ。

そこで待っていたハルに恭弥と一緒に仕事をする旨を告げてみる。

 

すると彼女は面白い位に慌てだした。

 

 

 

 

「え、え、え、雲雀さんと仕事って、雲雀さんの仕事を手伝うって事ですか!?え?」

「そうよ。えぇと・・・どこぞの弱小ファミリーを潰しに行くんだけど」

「だ、大丈夫なんですか?雲雀さんの仕事って、半端でなく、かなり、グロいそうですっ」

「ぐ、グロ・・?」

「同行した構成員は、最低三ヶ月間は悪夢に魘されるって噂で」

 

 

 

 

悪夢に魘されるって・・・それは単にそいつらが神経弱いだけなんじゃないだろうかと思いつつ少し想像してみた。

 

そういえば、恭弥って武器トンファーよね。つまりは殴り殺すって事で・・・ナイフや銃で殺すより死体は悲惨な状態

であると考えればグロいことはグロいか?顔とか原型留めてなかったら確かに見たくないわね。それ。

何度か人殴ってるの見たことあるけど、それはもう痛そうな音がしてたのよね・・・ああ、思い出しただけでも痛い・・・

 

恭弥には何だか相手を嬲り殺しにするイメージがあるから余計―――

 

 

 

 

「夢の中で、血塗れになった雲雀さんがトンファーで襲い掛かってくるそうですよ!」

「そっちか!」

 

 

ああそう。死体の方じゃないわけね・・・・

 

 

「しかも笑いながら」

「どんなだ・・・」

 

 

 

 

笑いながらって表現は可笑しいだろう。別に高笑いをしているわけでもあるまいし。してたら怖いけど。

つまり恭弥は仕事中、笑顔なわけだ。楽しいのだろう。・・・うん、やっぱり見てみたい。

 

多分それは、初めて彼に会った時に浮かべていた笑みと、同じものであるだろうから。

 

 

―――私が一緒に行く事で、不機嫌になってなきゃいいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやらそれは杞憂に終わったらしい。

 

ボスに呼び出されてから二日後の夕方、私は恭弥を含む幹部達との打ち合わせに赴いた。

今回は執務室ではなく、ボンゴレ本部の片隅にある小さな会議室。

指定された時間に行くと恭弥は既に来ており、彼の纏う空気からは不機嫌さ等は感じ取れなかった。

 

寧ろ、一仕事を前にして悦んでいるような。何はともあれ、悪くない状態なのだろう。

 

私は挨拶ついでに声を掛けた。

 

 

 

「それにしても・・・・一緒に仕事なんて、本当に珍しいこと」

「確かに、を寄越すなんて随分と酔狂な人選だね。笑えるよ」

「・・・恭弥。侮辱と受け取るわよ?」

 

 

 

文句があるならボスに言えと暗に迫る。勿論冗談半分の会話であって、心底そう思っているわけではないが。

私だって昔弱小ファミリーを壊滅させた事のある人間だ。足手纏いになるつもりなど毛頭無い。

本気でなかったとしても、何度か戦った恭弥のことだ。それ位は理解してくれているのだと思いたい。

 

 

・・・とはいえ私にお鉢が回ってきたのは少々疑問が残る。ボンゴレなら、他に優秀な人間は居るわけで。

 

 

ドン・ボンゴレが何を考えているかなど―――私達には分かる筈もなかった。