一体、どんな事になるのだろう。

 

 

その音が終わるまで

 

 

 

「じゃ、始めるぞ」

 

 

 

今回の任務の説明担当はリボーンだった。

山本がその補佐として会議室の隅に立った。私達と、数人の男達だけが用意された椅子に座っている。

見知らぬ顔ぶれに内心警戒心を覚えていたものの、彼らが恭弥の部下だと聞いて多少緊張を解いた。

 

恭弥に部下が居る事は知っていたが、実際目にするまで本当に信じられなかった。

 

 

(・・・・世の中には奇特な人間も居るものね・・・・)

 

 

っていうか、思いっ切り見られてるんですけど。

恭弥と仕事を共にする下っ端―――しかも女と来れば驚くのも無理はないか。

 

私の方をじぃっと見るも、ふと我に返って慌てて顔を戻す様はかなり滑稽だった。

 

 

 

 

「まずはこれを読め。三分やる」

 

 

 

 

リボーンは開口一番そう宣言し、山本に目配せをした。彼はひとつ頷いて持っていた書類を一部ずつ回し始める。

ボスから渡された資料とは違う。屋敷の見取り図や、屋敷付近の情報が載っていた。

 

当日、どう動くか。多分そういう事が説明されるのだろう。

 

私は配られた書類をざっと流し読みした後、書類に没頭する振りをしながらその部下達を観察してみた。

 

 

 

 

全員、若い。

 

それが第一印象だった。

確かに恭弥の仕事は『破壊屋』だから、それについていこうと思えば体力が無いと話にならない。

 

・・・でもまあ、破壊行動に加担しているわけではないだろうが。

 

 

(多分恭弥が黙ってないだろうし。『邪魔』とか言って)

 

 

その光景がまざまざと目に浮かんで、込み上げて来る笑いを俯きながら噛み殺した。

 

 

 

 

、聞いてるのか?」

「聞いてますよ勿論」

「・・・・・・本当だろうな・・」

「信用ないですね。何でしたら今リボーンさんが言った事、初めから暗唱しましょうか?」

 

 

 

 

一字一句間違えず、と至極真面目そうな顔つきを作りながら私は言う。

名前を呼ばれた瞬間、この部屋に居た全員の視線が私に突き刺さった。・・・肌が痛い。

 

私が部下を観察し、色々と考えている間にリボーンの説明は始まっていた。

勿論気付いてはいたのだが、手元の資料のおさらいのような内容だったので聞くまでもないと判断したのだ。

 

 

周りの音、というものは耳に入ってくる。私がそれを意識していなくても。

情報は脳に届いているのだから、其処から情報を自由に引き出す事が出来れば問題ない。

 

 

そして私には―――それが、出来る。

 

 

自信たっぷりに笑う私を見て、リボーンは諦めた様に溜息を吐いた。

 

 

 

 

「聞く気があるならもっとちゃんとしとけ」

「はい。すみませんでした」

 

 

 

 

そして何事も無かったかのように説明が再開され、向けられていた視線もちらほらと散っていく。

 

・・・・が、じっと物言いたげにこちらを見る幼馴染の視線だけはいつまでも離れる事はなかった。

 

 

(自分の仕事なんだから恭弥はちゃんと聞いた方が良いと思うんだけど、ね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてリボーンはターゲットの屋敷に突入前と仕事終了後、その両方の行動について説明した。

 

屋敷内の事には一切触れず、そのまま会議を終了と宣言。

不思議に思った私が口を開こうとしたが、恭弥に視線だけで止められた。

その間に部下達はぞろぞろと出て行く。

 

部屋にはリボーンと山本、恭弥と私の四人だけが残った。

 

 

 

 

「んじゃ、本題に入るとすっか!」

 

 

 

 

扉がしまり、部下達の気配が完全に消えたのを確認しから、徐に山本が口火を切る。

 

屋敷内の事は当事者だけに、か。

 

 

 

 

「・・・やっぱり私も破壊行動に関るんですね・・・」

「あ?今更何言ってんだ

「いえ、今更ですけど再確認したというか」

 

 

 

 

本当に、躊躇などはない。

ただ、私は今まで殺しを仕事にした事はなかった。

私の邪魔をするから、私にとって危険だから、殺すしかなかっただけで。

 

勿論最初は私怨だったけれど―――。

 

 

(戸惑っているのは、事実かもしれない)

 

 

マフィアに籍を置いている以上、いずれは通る道・・・・・・・何にしろ気分の良い仕事ではない。

 

 

 

最も、・・・・・それを悦ぶのが此処に約一名居るけどね・・・!

 

 

 

 

「・・・・なに」

「別に?」

 

 

 

その常識外れの人間をちら、と窺うと丁度こちらを見ていたようで、目が合った。

私の視線に何かを感じたのか訝しげな顔をしている。

 

 

 

「恭弥こそ何なの?何か御用?」

「別に・・・」

「会議の時も見てなかった?」

「・・・自意識過剰」

「へぇ?」

 

 

 

 

そしてそのまま普段通り意味もなく言い合いに―――なるはずだった。

 

だが今回は違った。

 

 

対峙する姿勢を取った私と恭弥の間を、一発の銃弾が見事な速さで通り抜けたのである。

乾いた音がしたかと思うとすぐ、近くの壁に小さな穴が開いた。

 

 

 

「「・・・・・・・」」

 

 

 

思わず押し黙る私達。笑いながら満足そうに銃を仕舞うのは、やはりリボーンだった。

 

 

 

 

「り、リボーン。ちょっとやりすぎじゃね?」

「こいつらは実力行使の方が手っ取り早い」

「あ―・・・成程・・・」

 

 

 

山本とリボーンの気の抜けるような会話を背に、私はそっと嘆息した。恭弥も肩を竦めている。

彼の言う通りに今は大人しく実力行使に従っておいた方が得策だろう。

 

 

・・・・・・・だって、多分次はマジで当てる気で撃ってくるだろうし。

 

 

恭弥はともかく、私はリボーンと戦うのだけは避けたかった。

 

向こうは遊びのつもりでも本当に疲れるのだ。やってられない、というのが正しい。

 

 

 

 

「わり、もうちょっとだから我慢してくれよな」

「次ボサっとしてたら撃つぞ」

 

 

 

 

申し訳なさそうな山本と、凶悪な笑みを浮かべたリボーンを前に。

 

 

私達は仕方なくきちんと話しを聞く体勢を整えた。