私より数瞬遅れて恭弥が座りなおしたのを見計らい、リボーンが口を開く。

 

そして放たれた言葉に、一瞬、私は耳を疑った。

 

 

 

その音が終わるまで

 

 

 

 

「・・・・パートナー?」

「そうだ。少なくとも『仕事』に取り掛かるまで、お前らは二人一緒に行動してもらう」

 

 

 

パートナー。

相棒。共に仕事をするときの相手。

 

それならばまだいい。望む所だ。恭弥の足を引っ張ることなく対等に渡り合える自信はあった。

 

 

―――しかし。

 

私達が忍び込む屋敷は、仕事当日結婚式が挙げられている筈なのである。

 

 

 

恭弥の仕事は、いつも宴会や会議等人が集まるときに実行される事が多い。一気にかたを付ける方が楽だからだ。

今回は結婚式。人々が喜びに湧き上がり宴会を楽しんで油断しきった所を狙うという。

 

天国から地獄へ・・・・何とも非道な仕打ちと思わないでもなかったが、どうせ他人事なので気に病んだりはしない。

ともかく、結婚式場に於いてパートナーとして一緒に行動しろという事は。

 

 

 

 

「噛み砕いて言うと、ほら、あれだ。恋」

「噛み砕いて頂かなくても結構ですよ、山本さん」

「だ、だからフリで良いんだって」

「フリじゃなきゃ何だって言うんですか」

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

畳み掛けるように追い詰めると、山本はぐっと黙り込んだ。その顔には引き攣った笑みが浮かんでいる。

・・・別に、恋人のフリなんて簡単な事だ。今までだって幾らでもやってきた。偽装は私の十八番なのだから。

 

恭弥だから嫌なんだとか、そんなこと、全然―――

 

 

 

 

「頼む、この通り!」

「・・・あの、誰もやらないとは言ってませんけど」

 

 

 

巡る思考を遮った声の主に視線をやると、私を拝むようにして頭を下げていた。何故。

訝しげに目を細めた私に、リボーンからのフォローが入る。だから何故。

 

 

 

「パートナー同伴じゃなきゃ入れないシステムに変えたらしくてな。流石に警戒してやがる」

「はあ。ですからやりますってば」

「適当に引っ付いてりゃ何とかなるだろ?」

「多分な」

 

 

 

駄目だ、聞いてない。というか態と無視してないか?

 

恭弥は驚いた事に黙ったままだし、残りの二人は口をそろえて『やれば出来る』『頑張れよ』等と言う。

だから私は大丈夫だと言っても納得したのかしてないのか読み取れない表情で苦笑いを返された。

 

 

仕方なく、矛先を変えてみる。

 

 

 

 

「・・・・・恭弥に出来るかどうかが問題だと思うんだけど」

「出来ないとでも言いたいわけ」

「あら。恭弥にエスコートなんていう高度な技術が備わってるようには思えなくて」

 

 

 

女性を連れている所など終ぞお目にかかったことがない。

いや、まあ、恭弥が愛想よく女性をエスコートしている図など見た日には悪夢だと思うに違いないだろうが。

 

その点、イタリア男のリボーンやランボは遥かに年下の癖に、そういう事に関してはもう一流だ。

 

完璧さを目指すなら恭弥がどちらかに鍛えてもらえれば良いのだが―――流石にそれは無理だろう。

 

 

 

ん、もういい。どうせ私がリードしてやれば良いだけの話だから。恭弥に頼る必要も無い、か。

そういう風に自己完結して気合を入れ直していると、リボーンの静かな声が響いた。

 

 

 

 

「雲雀。前みたいな騒ぎは起こすなよ」

「・・・・・・・・」

「騒ぎ?」

「あ、こいつ前の仕事でパートナー半殺しにしてさ」

「・・・・・・・・はい!?」

「・・・・・鬱陶しくてね」

 

 

 

 

いやいやいやいや。何を言ってくださってるんですかこの幼馴染は。

 

鬱陶しかったから半殺し?・・・・って、どういう理屈だこの野郎。しかも仕事中だろうが。

 

 

 

 

「恭弥。余計な事したら殴るわよ?」

「なら殴り返す」

「あのね・・・」

 

 

 

しれっと何でもないように返す恭弥にイラっと来るものがあったものの、今回のパートナーは私。

半殺しにされる理由もなければ黙って恭弥の凶行を見過ごす性分でもない。

 

 

・・・・・・まさか、そういう軌道修正を任せるために、ボスは私を指名したのだろうか。

 

 

山本やリボーンが宥めるのをのらりくらりとかわす恭弥をそっと見つめる。

 

(仕事中の恭弥が見られるなら理由はどうでもいいけれど)

 

 

 

頑張ってね、と言った時のボスの笑顔が脳裏に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、仕事当日の朝。

 

真昼間からの式ということで、私はボンゴレのとある一室を使って用意を整えていた。ハルも手伝ってくれている。

というより、無理矢理手伝う事を承諾させられたのだ。

 

何を着ていくのかと問われ、何の気なしに普段のように落ち着いた色の、暗いドレスと答えたのがまずかった。

 

 

『えぇっそんな陰気くさい服駄目じゃないですか!結婚式ですよ!?』

 

 

等と説教され、淡い色の服を押し付けられてしまった。今、ハル監督の下で着替え中である。

 

いや、これからその幸せ一杯な結婚式をぶち壊しに行くんだけど・・・。

 

 

 

「じゃあさん座って下さい。髪結ってあげます」

「・・・有難いけど、何で其処まで気合を入れる必要があるの?」

「雲雀さんとの仕事、初デビューおめでとうございますの意味を込めて!」

「は、初デビュー・・・」

 

 

 

ハルは私の長い髪を櫛で梳きながらてきぱき纏め上げていく。

その心地よさに目を閉じ、ゆったりと椅子の背に身を預けたそのとき。

 

 

 

「それにですね。多分今日の仕事が成功したら、これからもそういうお誘いあると思いますよ?」

 

 

(・・・は?)

 

何やら理解し難い言葉が聞こえた気がして思わず鸚鵡返しに問いかけた。

 

 

 

「これから?」

「ええ。ほら、雲雀さんって誰かと協力して戦うの苦手ですよね?」

「そりゃまあ・・・ああいう性格だし」

「その点、さんは幼馴染ですし、もしかして上手く行くんじゃないかって話になってるみたいです」

「・・・・あのねぇ・・・・」

 

 

 

だからね、私は殺し屋じゃなくて情報屋なんだってば――――