彼と私とは、違う。それはお互い別個の人間だから、当然なこと。

その違いに反発することはあるかもしれない。自分を真っ向から否定されることもあるかもしれない。

 

それでも―――知りたいと、思うから。

 

 

その音が終わるまで

 

 

 

耳が痛くなるような、静寂。

血の海に沈む、人であったモノたちの中で、私達だけが立っていた。

 

漸く一仕事終えたばかりだというのに解放感や満足感などは一切感じられない。

私は別に、“殺し合い”に何かしらの価値を見出しているわけではない。だから楽しむことも、ない。

 

勿論恭弥との喧嘩は楽しいと思う。でもそれはきっと、命のやり取りをしているわけではないからだ。

 

 

(・・・・恭弥は、喜んでるんだろうけど)

 

 

彼の、仕事後の姿を見れたらいいな、なんて。・・・そんな軽い気持ちで居た仕事前の自分。

 

闘うことが何よりも好きな幼馴染のそんな姿を、今だけは見たくないと―――――

 

 

 

 

――――――――思うが、しかし。

 

 

 

(それとこれとは・・・・別・問・題!)

 

 

 

私は手に持ったナイフの血を払って懐にしまいつつ、勢いを付けてばっ、と振り向く。

振り向いたその先には―――やはり、同じ様にこちらへ身体を向けようとしている恭弥の姿があった。

 

彼もまたトンファーに付いた血を振り払いながら、怖いほど真剣な顔をして私の方を見やる。

 

 

・・・・目が合ったと同時に、寸分違わず見事ハモった。

 

 

 

「36。」

「36!」

 

 

 

間。

 

 

 

「ちょ、なに?・・・同じ?」

「まさか偶数とはね―――」

 

 

 

本日のメイン勝負の結果を知ろうと、かなり自信たっぷりに殺した人数を宣言したのだが・・・・

 

ここでもシンクロ率は高かった。いや、こんな所まで呼吸が合わなくてもいいのに。

 

 

 

「・・・・あ。私がフライングして殺したのがマイナス一で・・・・」

 

 

 

ついかっとなって殺してしまったあの男。もしあれが数に入っていれば奇数となってどちらかが勝った筈。

でもやってしまったものは取り返しがつかず、結果綺麗に二分されてしまっていたようだ。これでは勝負がつかない。

 

折角(恭弥の分だけ)賞品まで決めて、頑張って勝とうと気合を入れたにも関らず―――引き分け?

 

二人共残念でした、さあ帰りましょう――――で、のこのこ本部へと帰還?

 

 

 

“こんな結果、満足出来る筈がない。”

 

 

そう思っていたのは、・・・・何も私だけではなかった。

 

 

 

「じゃ、がフライング負けってことで」

「ちょい待ち。少し前にフライングの分も数に入れていいとか言わなかった?恭弥」

「『入れなくても勝つ』んでしょ」

「だからってフライングが失格とはルールに入れてないわ」

「・・・・屁理屈」

「どっちが!」

 

 

 

この仕事が嫌な部類であった分、恭弥に勝ちたいという私の思いは一際強かった。

それに加え、元々負けず嫌いである恭弥がみすみす負けを認めるような真似をするわけがない。

 

お互い一歩も退かず、強気に出た手前退くことも出来ず、子供のような言い争いを続けていた。

 

 

――――だからだろう、私達がその気配に気付くのが遅れたのは。

 

 

 

 

微かな、本当に微かな音が、した。

 

ともすれば聞き逃してしまいそうなくらい、小さな音だった。

 

 

 

「「・・・・・・・・っ、!」」

 

 

 

気付いたのは同時。距離は―――少し、恭弥の方が近い。それでも。

 

 

 

「・・・・・・・ほら、ね。飛び道具の方が有利だって・・・・言ったでしょう?」

「・・・・・・・・・・五月蝿いよ」

 

 

 

全員死んだと思われていた中で、息を吹き返し起き上がりかけた男が居た。響いた音はそれの所為。

動かない方が生きられたかもしれないのに、と思いつつ即座に動いた恭弥を横目に私も動く。

 

 

―――次の瞬間には、その男の心臓に深々とナイフが刺さっていた。

 

 

その男の身体には打撲痕が多数残っており、恭弥が“殺した”標的であったことが窺える。

 

 

 

「ふっふっふ。止めを刺さなきゃカウント出来ないって最初に確認したわよね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

勝ち誇って胸を張り、嫌味たっぷりにそう言っても最早恭弥から反論が放たれることはなかった。

 

さもありなん、恭弥の結果から一を引いて、私の結果に一を足せば・・・・37対35。

 

 

私の、勝ち。

 

 

 

「最悪・・・」

「全部思い通りに行くと思ったら大間違いなんだから。まあこれでひとつ成長したってことで」

「は、成長?・・・くだらない。僕は帰」

「そのまま帰すとでも思ってるの?」

 

 

 

負けたことが余程悔しいのか、一気に不機嫌になってさっさと帰途に着こうとする幼馴染。

だがしかし。そうは問屋が卸さない。忘れてた、では絶対に済ませてやらない。

 

そう―――どちらかが勝った場合の、『賞品』の存在である。

 

私は恭弥が買った場合、『Xi』の情報を無償で与えると約束した。だが私の分を決めてはいなかった。

 

 

これで賞品云々を有耶無耶にされては困るので、今頭をフル回転させて何をさせようかを考えている。

 

 

 

「まさか今になってナシ、だなんて言わないでしょうね。雲雀恭弥さん?」

「・・・・・っ、だったら早く言えば?待たせないで欲しいんだけど」

 

 

 

おお、珍しい。一応聞く気にはなってるんだ。無視して帰ることだって出来ないわけじゃないだろうに。

 

 

(ま、無視されたらされたで、散々嘘吐き呼ばわりしてあげようとか思ってたけどね)

 

 

腹の底でそんなことを考えつつ、私は顎に手を当ててじっと考え込む。さて、何がいいだろう?

 

私の賞品。・・・・別にここで、恭弥が嫌がるようなことを要求しても良かった。

ボンゴレ本部の周りを逆立ちで一周するとか。女装して出勤するとか。一週間ソファ禁止とか。その他諸々。

 

でも、絶対踏み倒されることがわかっていたから止めておく。折角のチャンスを無駄にしたくない。

 

一週間晩御飯奢れ、と言って贅沢三昧でも良かったのだが、彼とのスケジュールが中々合わないのだ。

 

 

 

(だったら・・・そうね。私に必要なのは・・・)

 

 

 

今私が一番やりたいこと。

 

 

それは―――――

 

 

 

 

「じゃあ・・・恭弥の部下、私に紹介してくれない?」

 

 

 

いいでしょう?と自分の出来る限り可愛らしく首を傾げ。

 

突っ立ったまま驚いたように目を見開く幼馴染に、私は悪戯っぽく尋ねた。