其処は外部から遮断されたような静けさだった。




少し前まで五月蝿く鳴り響いていた銃声や悲鳴が、嘘みたいだ。

此れだけ激しい銃撃戦が繰り広げられたにも関わらず、何の騒ぎにもなっていないのは、この教会が周囲から孤立しているという立地条件のお陰だろうか。 いや、それにしても随分と静かで、時が止まったような錯覚を覚えずにはいられない。




  …まるで、この場所だけが世界から切り離されたみたいだ。




僕らしくない考えだとは思うが、強ち間違いではないんじゃないかと思う。

だってこの場所にあるのは、割れたステンドグラスだったり、幾つもの銃痕が刻まれた十字架など。 それに半分以上が壊れて尚、微笑み続けるマリア像なんて、どれも現実離れしたものばかりで、リアリティに欠けるのだ。


そして極めつけは、血と硝煙の匂いが立ちこめる中で唱えられる、祈りの言葉。




   Et lux perpentua lucent eis. Requiescant in pace. A-men.




聞き慣れた祈りの最後の台詞に、僕は座っていた長椅子から立ち上がる。 そして割れたガラスを避けることなく踏みつけながら、 の隣で足を止めた。




「、恭弥?」


「終わったんでしょ?」


「終わったけど」




軽く俯いていた顔を上げたは肩を竦めた後、僕を見て眉を顰めた。(ワォ、失礼極まりないね)




「って云うかさ、恭弥」


「何?」


「何、じゃなくて。顔に付いた血くらい拭こうよ」




ああ、そんなものが付いていたのか。(痛みはないからきっと他人の血だろうけど) は相変わらず、早く拭けと言いたげな瞳で此方をジッと見上げている。




「……面倒k「そんなこと言わないの」




言いたいことが想像ついたのか、僕が言葉全てを口にする前に、彼女の指は僕の頬に付いた血を拭っていった。 まだ乾いてなかったらしいそれは、思ったより簡単に彼女の指を彩る。(その紅が綺麗だなんて思ったと言ったら、キミはどんな顔をするんだろう)




「ホラ、取れた」




ね?と言ったの手を僕はおもむろに掴むと、そのまま引き寄せた。




「ちょっ、恭弥、痛いんだけど」


「ねぇ、は、神サマ信じてるの?」




文句を言いたそうに眉根を寄せただったが、僕の言葉にきょとんとした表情を浮かべた後、 掴まれているのとは逆の手を顎に当てる。




「んー…そうだね、どっちかって言えば信じてるかも」


「何、かもって」




怪訝そうにを見るが、何だろうね、と彼女は可笑しそうに笑った。




「そう言う恭弥は…って、信じてるわけないか」


「愚問だね」


「恭弥は昔から『何様 俺様 恭弥様』だったもんね」


「喧嘩売ってるなら高額で買い取ってあげるけど?」


「冗談は止してよ」




そう言っては引き攣った笑みを浮かべると、僕が掴んでいた手を動かした。(そう云えばまだ掴んだままだったな、なんて思ったのは勿論、秘密)




「ねぇ、恭弥。そろそろ離して」


「却下」


「…何で」


「何でも」




恨めしそうな視線を送っていただったが、僕がそれを受け入れないと悟ったらしく、呆れたように溜め息をついた。




「じゃあ、せめて手を繋ぐに変えるとか。掴んでる方は良いかもしれないけど、掴まれてる方は痛いの」


「……まあ、良いけど」




渋々と僕は掴んでいた手を離して、の前にその手を差し出す。 それに従ってが僕の掌の上に自分の手を重ねた時、彼女は、あ、と声を洩らした。




「ね、ね!恭弥っ」


「ハイハイ、今度は何?」


「あのね、なんか今の、結婚式みたいだなって」




嬉しそうにはにかんだの頬はほんのり赤くて。

僕はは不意打ちで食らったその言葉に、堪らず目を伏せた。(ああ、キミはなんてことを言うんだろう)(僕がそれに堪えられるとでも思っているんだろうか)

どうしたの?と、覗き込んでくるをちらりと見れば、少しだけ自分の頬に熱を感じて。(それは反則だと、心の中で思ったのは言うまでもない)




「……


「何…っん…恭、弥っ…!」


「ちょっと、黙ってなよね」




  …悪いのはキミなんだから。キミが僕を狂わせるんだから。



逃げられないように腰に腕を回して。深く、深く、口付けて。逃げ惑う舌を捕らえたら、呼吸すらも奪い尽くすようなキスを。 (わかるだろ?もう、キミの全てが愛おしいんだ)




「…っ、は…」


「……ねぇ、?」


「…な、に……っ?」




乱れたままの息で答えるに、僕は微笑んだ。僕にしては珍しく邪のない笑みだったと思う。(でも、それにキミが息を詰めると云うコトを知ってる)




「愛してるよ、誓ってあげる」


「な…っ!?」




は大きな瞳を更に大きく瞬かせて、僕は口元を緩ませた。




「…ああ、こういう時ってこうするんだっけ?」




そう言っての左手を取り、跪く。そして手の甲に口付けを落として。
わざと髪の間から見上げるように見つめれば、顔を真っ赤に染めたの姿。

其れを素直に嬉しいと思った僕は、もう随分と甘くなったのかもしれない。







「僕の全部、にあげる。…だから」




代わりに、の全部
僕に頂戴?



箱庭世界の
真ん中で





( 神サマなんか信じてないから、そうだな、代わりに僕の命にでも誓おうか )


( たとえ、この世界が造りモノだったとしても構わないよ )


( キミがいるなら、生きていける )










相互記念という事で冴凪様から頂いてしまいました!
十年後の雲雀夢甘めで、とお願いしたのですが
リクエストど真ん中です!
冴凪様、本当に有難うございます!!

冴凪様のHPはこちらからどうぞ!


07/01/28