「恭弥!!Happy Valentaine!」




流暢に英語で応接室に飛び込んできたのは、僕の『先輩』








〜St. Valentine's day〜








この人は。僕の2コ上で、僕の前に風紀委員長を務めていた『先輩』だ。 今は並盛高校に通う女子高生の筈だが、時々こうしてふらりと現れては僕の所に来る。

因みに『先輩』と僕が呼ぶのはこの人だけ。他の人は先輩なんて呼ばないし、第一認めない。




「別に[Happy]じゃないよ、先輩」

「ん?何だ、焼きもちか」




僕が向かいのソファに陣取った先輩は、ニヤニヤしながら持っていたモノをテーブルの上に広げた。 それは、綺麗にラッピングされた大量のチョコだと思われる品々。




「……今年もそんなに貰ったの?」

「ああ、羨ましいだろう?」




そう言って満面の笑みを見せる先輩。先輩はこういう性格上、女子から圧倒的な支持を受けている。 勿論、男子からも人気は高い。まあそいつらは害虫として、僕が咬み殺すんだけど…って、話がずれちゃったじゃないか。 とにかく、バレンタインデーとなると、いつも段ボール何箱分になるんだろうと思うような量のチョコをもらってくるのだ。




「どうかしたか、恭弥」

「…別に」




嬉々とした表情の先輩に、僕はあからさまに溜め息をついた。 そりゃあ、超ド級の甘党な彼女にとっては何よりも嬉しい物だろうけど、そうじゃない僕にとっては地獄のような光景なのだから。

僕の様子に既に箱の一つを開けて、チョコを食べ始めてる先輩は首を傾げる。 しかし次の瞬間、ハッと何かに気付いた様子でテーブルのチョコを両腕で守るように抱え込んだ。




「こ、これは私のだからやらんぞ!」

「いや、いらないから」




というか、僕が甘いものが好きじゃないないことを知っているくせに、新手の虐めか。 ……まぁ、チョコで異常なテンションになっている先輩は、何を言ったって聞かないから言わないけど。




「心配しなくても恭弥には専用のがあるからな」

「……は?」




いやいや、別にそんなこと心配してないから…って、違う。いや、あってるけど、ソコじゃない。 それをつっこむ前に、もっと違和感を覚えるような言葉が聞こえたじゃないか。




「…僕、専用?」

「そうだぞ。ホラ」




そう言って僕の前に置かれたのは、白に薄いピンクのリボンがかけられた箱。 僕はその物体を呆然と見つめた後、ゆっくり先輩に視線を戻した。




「………何、コレ?」

「? チョコに決まってるじゃないか」

「………誰からの?」

「私からの。因みに手作りだ」




『……え、何これ嘘?ドッキリ?』以上、僕の感想。

で、すむわけがない。 信じられないという表情で先輩を見ると、先輩は足を組んだまま、得意げな顔をして此方の反応を見ていた。




「……先輩が、僕に?」

「そうだぞ、一つ一つ拝んで食べろ」




や、流石にそれは嫌だ。……嫌、だけど。 手を伸ばして箱を開けると、その中には茶色と白の2色のトリュフが並んでいた。 そのうちの一つをつまんで、口に運ぶ。すると口の中に、ビターの味がふわりと広がっていった。




「どうだ?」

「……甘い」

「そりゃあ、チョコレートだからな」




それで?と、先輩は更に僕に詰め寄る。 う…っと言葉に詰まった僕は、その視線から逃げるように顔を背けた。




「………おいしい…」




ポツリと、小さな声で言う。 途端に先輩は何を思ったか、目の前のテーブルに突っ伏してしまった。




「ちょっと…何してるの?」

「…恭弥…」

「……何?」

「…っ、お前ほんっとに可愛いな…!!」

「な…っ!?///」

「さすが私の後輩、弟にしたいくらいだな」




間に置かれたテーブル越しに抱きしめられ、僕は思わず顔が熱くなるのがわかった。




「は、なしてよ!もう」

「おお、悪い悪い。あまりにも恭弥が可愛かったんで、つい」

「可愛いとか、男に向かって言う言葉じゃないから」

「そうか?恭弥はカッコイイが、可愛いとも思うぞ?」

「――…っ!?」




なんでそんなことをサラリと言うんだ、この人は。恥ずかしいとか思っている僕が、バカバカしく思えてくるじゃないか。 大体、先輩は僕のことを何だと思ってるんだろうか。(後輩?弟?……冗談じゃない)




「先輩、ちょっと」

「ん、何だ?」




僕の隣をポンポンと叩けば、軽い足取りで近づいてくる。 そして、隣に座ろうとした先輩の腰に手を回して強く引き、そのままソファに押さえつけた。




「っ!?きょ、や…!んッ…」




反論する隙を与えず口付ければ、くぐもった声が聞こえてくる。 でも、それも無視して先輩の唇を割り、逃げ惑う舌を追い立ててやると、限界だと言うように僕の胸を叩いた。




「…っ、は…!恭弥!?急に何するんだ!!」

「何って、おすそ分け」

「…は?」




甘かったでしょ?と僕が首を傾げれば、珍しく顔を染める先輩。 いつも先輩の方から不意打ちでしてくるから、こうやって赤くなる先輩を見たのは久しぶりだ。




「…恭弥」

「何?」

「もっと」




思わぬ先輩の言葉に、僕は目を見開く。けれども先輩はそんなことお構い無しというように、僕の首に腕を回した。




「もっともっともっと、甘いお前が欲しい」

「全部あげるよ、僕の『先輩』に」







その甘さに溶けていく





( 僕にとって『先輩』はきっと、甘く全てを溶かす毒なんだ )









07.02.14






 

Galassia*の冴凪様より強奪してきましたバレンタイン企画フリー夢。
冴凪様宅の【僕の『先輩』を紹介します】シリーズからの作品です!
甘い・・・っバレンタイン夢とはこうあるべきですよね!
素敵な作品、どうも有難うございました!!