今日がその日だということを、誰も気付いてはいなかった。

 

多分―――本人でさえも。

 

 

 

黒い羊は永久を -Hibari's Side-

 

 

 

ボスの執務室に報告に来てからもうどれ位の時間が過ぎただろう。

 

とハルが向かった先、その動向如何で自分達の取るべき道が決まる。

その為、残された者達は報告待ちと称して執務室に待機せざるを得ないのだ。

 

雲雀は壁に凭れながら、小さく溜息を吐いた。

 

 

あの二人の事だ、何の遜色もなく見事に任務を果たすだろう。心配などする必要はない。

 

しかし、それでも・・・・待つという行為は未だに好きにはなれなかった。

 

内心軽く苛立ちを覚え、雲雀は腕時計に目をやる。

 

 

 

 

その時だった。

突然、携帯が鳴った。

 

 

 

「・・・・・?」

 

 

 

一瞬にして自分に視線が集まるのを感じながら、胸ポケットから携帯を取り出す。

ディスプレイには、『Haru』の文字。

 

(・・・・ハル・・・?)

 

終了報告は山本の携帯に行くはずだ。何故彼女が今、自分の携帯に掛けて来るのだろう。

 

・・・じわり、と嫌な予感が胸に広がった。

 

 

動揺を抑えつけて電話に出る。

 

 

 

 

「――は」

『恭弥さんですかッ!?』

「・・・っ!・・・・・・」

 

 

 

途端大音量で声が流れてきて反射的に携帯を遠ざけた。

 

あのさ、耳元で怒鳴らないで欲しいんだけど。

 

 

 

「・・・五月蝿いよ。もっと落ち着いて喋れないの?」

『っこれが落ち着いていられますか――!恭弥さん、大変です!ゴジラが降臨したんです!!』

 

 

 

昔とは違って大分落ち着いてきたハルがこんなに慌てているのだからどんな緊急事態だと思ったのだが。

 

・・・・・・ゴジラってなに。

 

 

 

『もうっ恭弥さん聞いてるんですか!?』

「君さ・・・・眼科か精神科に行くことをおすすめするよ」

『が・・ひ、酷すぎます!ああでもそうじゃなくて・・・今大変なんです!助けて下さい!!』

「だから何が。今どういう状況なの」

『えー今ですね、さんがそっちに向かってるんですけど』

が?こっちに?」

『はい。で、それが・・・さんものすっっっごく怒ってて・・』

「・・・・・・・」

 

 

 

ふぅん・・・それでゴジラ降臨、ね。

 

でもそれよりがマジ切れしてボンゴレに向かってるってどういう・・・

 

 

 

『お願いします、恭弥さん!さんを止めて下さい。恭弥さんにしか無理です!』

「止めるって・・・一体どうしろと」

 

『彼女はランボちゃんを殺す気なんです!それを止めてくださいっ』

 

「・・・・・・・は?」

『あれは本気の目でした!でももう本当に時間が無くて・・・さんあの機械使って飛んで行きましたから』

「いや、意味がよく」

『宜しくお願いし・ま・す・ね!!』

 

 

 

 

その言葉を最後に、電話は切れた。雲雀は珍しく唖然として携帯を見つめる。

 

やりとりを黙ってみていた綱吉はそっと口を開いた。

 

 

 

 

「恭弥。誰?今の」

「・・・・・ハル」

「え!?ま、まさか何かあったとか!?」

「・・・・・・」

 

 

 

雲雀は少し考え込んだ。

 

もし仕事に関して何か緊急事態が起こったとするなら―――が此処へ向かっているというのはおかしい。

そんな無責任な事をする人間ではないと知っている。仕事はもう終わらせたのだろう。

 

ただ、彼女は怒っているという。何に?否・・・・ランボに、か?

 

仕事が終わったら直ぐに帰ってくるほどの怒りを覚えている・・・しかし、何故。

朝は、・・・少なくとも夕方、ボンゴレから出て行くまではそんな素振りは無かった。

 

だとしたらその後、何か、が・・・・・

 

 

 

 

「恭弥!」

「・・・・別に。が帰ってくるらしい」

が・・・?」

「何でだ?後始末もしてくるんだろ?」

「知らないよ」

 

 

 

喚く幹部連中を軽くいなし、再び考え込む。

 

が、ランボを殺しにこちらへ戻って来るらしい。

 

まさか。本気でそんな事をするだろうか。・・・それにしてはハルが切羽詰っていたけど。

 

正常な判断がつかない状態だとすれば―――

 

 

 

其処まで考えて、ふとある事が頭に浮かんだ。

 

 

 

 

「・・・ランボ・・・」

「・・え?」

 

 

 

ばっともう一度腕時計を見る。

 

そう、大体こんな時間ではなかっただろうか。十年前、彼女が現れたという、その時間は。

 

 

・・・・・日付も、合う。

 

 

 

 

「どうかした?恭弥」

「あれが今日、だったってこと・・・」

「何の話?」

 

 

 

綱吉の訝しげな声に応えようと顔を上げたその――瞬間。

 

 

 

突然硝子が割れたような凄まじい音が響いた。

 

・・・近い。

 

部屋にさっと緊迫した空気が流れる。時期が時期だけに、笑い事では済まない。

 

 

だが雲雀は確信していた。

これは、『彼女』だと。

 

 

そう思った――次の瞬間には、既に足が地を蹴っていた。

 

驚いたように制止する仲間の声は耳に入らない。

 

入っていたとしても・・・勿論、聞く気は無かった。

 

 

 

 

短いようでいて、とても長い一日が、始まる―――

 

 

 

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