ある晴れた日。
私は幼馴染の雲雀恭弥といつものように教室で話をしていた。
その日は彼の誕生日だった。
「恭弥、誕生日おめでとう」
「・・・・・・・・・・何これ」
彼は私の差し出した箱を見るなり、怪訝そうな顔になる。
「何、って誕生日プレゼント」
「見ればわかるよ」
「ん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうも」
無言の圧力をこれまた無言でスルーしつつ、笑顔でそれを差し出し続けると渋々ながらも受け取ってくれた。
(よし、勝った)
赤いリボンで包まれたそれを器用に開く恭弥を見ながら、私は内心ほくそ笑む。
ぱか、と開けられたその箱の中には、一対の鉄の棒の様な物が収められていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・何、これ」
「ああこれはね、トンファーといって打撃武器のひと」
「見ればわかるよ・・・・」
反応は上々。
嫌味なほど綺麗な顔に戸惑いが浮かんでいる。私でも中々見られない表情に嬉しくなった。
「恭弥、この頃喧嘩ばっかりしてるじゃない?小4のくせに中坊にまで喧嘩ふっかけて。ほら今だって手の甲怪我してるし・・・。
でもこれを使えば大丈夫。これなら手に怪我する事なんかない上に与えるダメージも倍。正に一石二鳥!」
「・・・・・・・・」
「しかも沖縄から取り寄せた特注品。世界で唯一つ恭弥の為だけのブツよ」
お年玉が数年分吹っ飛んだんだから、などと私は口を挟む隙を与えずまくし立てる。我ながらテレフォンショッピングのようだ。
彼は諦めたのか、ため息をついて黙る。
それをいい事に私はしばらくトンファーの魅力と使い方を喋りまくってやった。
「・・・とはいえ今の恭弥に合わせて作ったから数年ももたないでしょうけどね。これだから成長期は」
「・・・・・・・トンファー、か。ふぅん」
私の話を聞いているのか居ないのか、いつの間にやらそれを取り出して構え、何度か振る。
風を切る小気味のいい音がして、私のこめかみをトンファーが掠めた。
「っ殺す気か!!」
「うん、悪くないね」
無視かよ。
「・・・・・・・・まぁ、気に入ってくれたなら良かったけど」
「これでもっと咬み殺せるし」
「好きにすれば。あ、こっちに迷惑はかけないでね」
好戦的に笑う恭弥。
私はその笑顔が好きだった。 たとえその影に傷つく人間がいたとしても。
「恭弥は闘ってるときが一番楽しそうだし。だからそれ、大事に使ってね」
「はいはい、善処してあげる」
喧嘩を終えたばかりの彼の姿は、何故か目を離せないくらい綺麗に見えて。
いつまでも見ていたかった。
見ていられると、信じていた。
「恭弥が大きくなって合わなくなったら、一緒に沖縄に新しいの作りに行こうね。はい約束」
「・・・・・了解。代金は勿論君が払うんだよね?」
「っ、だから何でそうなる!」
幼かった私達が交わしたささやかな約束。
―――――それから10年経った今でも、その約束は果たされてはいない。