反撃すればするだけ、説教が伸びるという事はボンゴレに入った時から今まで嫌と言う程身に沁みている。

 

とはいえ条件反射で動く体を制するに至るまでは、かなりの年月が必要だった。

 

 

 

黒い羊は永久を -Hibari's Side-

 

 

 

受け流す―――雲雀にとって、それは元来頭になかった行動。

だが此処は、それを全くしないで生きていけるような甘い世界ではなく。思い通りにならない事の方が多い。

 

初めてイタリアに来て・・・・・・雲雀は、自分が今までどれだけ狭い世界の中にいたのか思い知らされたのだ。

 

 

 

 

「おまけにてめ、駆けつけた野郎共脅しただろ!上司が来て厭味喰らったじゃねーか!」

「殴らなかっただけ感謝して貰いたいね」

「ああ、そいつは言えなくもないよな?成長の証っつーかさ」

「・・・・武、お前黙ってろ」

 

 

 

 

ボンゴレマフィアの一員となった時、雲雀を始めとする日本人組には上司がついた。守護者である事など関係なく。

綱吉の傍に居たのはリボーンだけと言っても過言ではない。勿論十代目ボスは彼らを傍に置こうとしたが叶わなかった。

ファミリーの全てを握るとはいえ、内部に東洋の血が混じる事を嫌う連中が多く、強硬手段に出れなかったのだ。

 

――――綱吉自身新参者で、ボスとは名ばかりの存在だった、力が足りないあの頃は。

 

 

 

 

そう、だから。

 

隼人と武は綱吉を護る為に。雲雀は誰かに命令される立場を嫌い。

力を蓄えつつ、時期を待って、上を排除して自力でのし上がった。―――マフィアは実力社会そのものだったから。

 

仲間が再び一堂に会した時。綱吉もファミリー内の大部分への根回しを終えていた。

ずっとリボーンやディーノを筆頭とした力在る人間達と協力して戦っていたのだ。

 

 

その頃には、『東洋の若造』等と侮っていた古株達は何も言わなかった。・・・・もう、表立っては言えなかったのである。

 

 

 

 

「毎回毎回業者を手配するこっちの身にもなってみろ!こんな惨状、他のファミリーじゃ聞いた事ねー」

「クラッシャーが二人もいるもんな。でもま、逆に考えればイタリア経済にはかなり貢献してると思うぜ?」

「だぁっ!今はそういう話なんかしてねえだろ!」

「業者は毎回喜んでるって。ほらこの間だってわざわざ超高級菓子折りとか持ってきてくれてさ、ハルが大喜び」

「――ッ黙りやがれこの万年天然野郎!!」

 

 

 

 

機を待つ間、一番問題を起こしたのが雲雀だった。綱吉のフォローが無ければ厄介な事になっていただろう。

あの頃に、ちゃんと『受け流す』ことが出来ていれば―――・・・?

 

否。それは自分が雲雀恭弥という存在でなくなるのと同じ事。

それが分かっているから綱吉も根気良くフォローした。そうだ、あの頃の自分は間違っては居ない。

 

ただ、それをやっていい時とやるべきでない時との区別をつける理性―――それが、嘗ての自分に足りなかったもの。

 

 

 

 

 

「この被害総額を見ろ!歴代2位、馬鹿にしてんのかおいっ!!」

「最高総額行くと思ったんだけどな―・・・やっぱあの時の酷かったもんな、恭弥もも本気だったし」

 

 

 

。・・・

過去に思いを馳せていた雲雀はその名にふと我に返る。長い説教を適当に流している内に随分ぼぅっとしていたようだ。

珍しく反論らしい反論をして来ない雲雀に満足したのか、隼人は一旦言葉を止め、ファイルを手元に戻した。

 

被害総額を忌々しそうにちら、と見やってから雲雀のほうへ向き直る。

 

 

 

「わかってるな。お前にはこれの半額分、弁償してもらう」

「ああそう。勝手にすれば」

「・・・反省する振りぐらいしろよな」

「っつーことは、も半額負担になるのか?あ、他にも仕事中に壊しまくってたよな。あれは?」

「・・・・・・・」

 

 

 

隼人は一瞬黙り込み、持っていたファイルを閉じる。その沈黙の意味が分からない。

普段のように『給料から天引きしてやる!』と喚き散らしてもいいようなものだが・・・一体どうしたのか。

 

雲雀や武が見つめる中、隼人は自分を落ち着かせるように大きな溜息を吐いて、口を開く。静かな声だった。

 

 

 

「いや・・・は今回不問に処す。これに関しても、仕事の方に関しても・・・・・罰金はなしだ」

「「・・・・・・・・・・・・は?」」

 

 

 

驚いた。・・・武はワザとらしく目を見開いているが、自分も心情的にはそんな感じだった。

 

雲雀やが破壊行為に走るたびにあらん限りの声を振り絞って怒りまくり、即罰金を課すような人間が。

任務中に生じた問題に関しては、鬼のように厳しい対応を取る人間が。

 

・・・・不問に処す?まさか、そんな言葉を零すとは。

 

 

 

「状況を、総合的に判断してだな・・・あいつ、ここに飛ばされてきたばかりで混乱してたってのがひとつ」

 

 

直前まで『十年後バズーカ』という常識を無視した武器の存在を知らなかったことが二つ目。混乱を増長させた。

その状況が分からない中、メモひとつで任務を――辛うじてではあるが――完遂したこと。これが三つ目。

 

 

「で、四つ目がお前だ、恭弥」

「ぅお、そう来たか」

「お前という環境の変化がに与える影響は決して少なくない。・・・・違うか?」

「・・・・・君に言われると何だか腹が立つよ」

 

 

 

隼人の顔には、揶揄の色など欠片もなかった。ただただ、という仲間を心配しているだけ。

茶化し気味だった武の目も次第に真剣な色味を帯び、空気が重く沈む。

 

 

「それに」

 

 

言いながら懐に手を伸ばし煙草を取り出す隼人。銀色のライターを手で弄びながら、そっと、呟いた。

 

 

「それに、・・・あの頃のあいつは、・・・・・・・未来なんか信じてなかっただろうが」

 

十年前のにとってこの世界は虚構でしかない。だから、無意識に壊したいと思っても・・・無理はないだろ?

 

 

 

部屋に沈黙が広がる。武は勿論、雲雀には尚更反論する事が出来なかった。全て事実だったからだ。

 

嫌な記憶が蘇り軽く舌打ちをする。未来を信じられないまま、別れを言いに来た、幼馴染の・・・・・

 

今は笑い話に出来る事でも―――苦々しい記憶だけは何時までも残っていた。

 

 

 

「情状酌量の余地有り、ってわけだ。未来云々に関しては十代目が何か言いたそうにしてたしな」

「・・・成程、それでは綱吉のところに居るんだ」

「ま、それで簡単に考えが変わるようなら苦労しねーよ」

「確かに」

 

 

 

雲雀たちは重くなった空気を振り払うように笑い合う。それが出来るのは、過去を全て乗り越えてきたからに他ならない。

 

だから今は、奇跡とも呼べるこの再会に感謝して――自分達が与え得る限りの希望を彼女に。

 

 

 

「報告は以上だ。恭弥はもう行って・・・・」

「あ、ちょい待ち俺伝言預かってる。ハルから」

「・・・ハルが何?」

 

 

 

隼人が雲雀を解放しようとしたその時、武がそれを制止した。ポケットから紙切れを取り出し読み上げ始める。

 

 

 

「『私達はさんと一緒に楽しくご飯食べちゃいますからね!でも恭弥さんは仕事なんで仲間外れです〜』」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「お、おい俺を睨むなって。・・・それから、『午後は秘密基地でさんと二人きりでお喋りするんです。

恭弥さんの出番は無いので大人しくお昼寝でもしておいてください』・・・・・?何だこりゃ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「馬鹿、おま、トンファー構えるな!怒る相手が違うだろっ!!」

 

 

 

 

結果、雲雀が弁償する額が増えた事は―――言うまでもないだろう。

 

 

 

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