私達は小さなテーブル越しに向かい合う。

恭弥たっての希望で日本茶を淹れた。お茶請けは可愛らしい金平糖だ。

 

・・・・・全然似合わない。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

「・・・それで、そろそろ聞かせてくれるんだろうね?」

 

 

 

ここまで来てしらばくれるようなら咬み殺す的なオーラを全身から発しながら、恭弥は問う。

私は予想通りの彼に、苦笑した。

 

 

 

「昨日の事については一応謝るわ」

「そんなに話したくなかったわけ?」

「――『マフィア』には、ね」

「・・・何それ。どういう事」

 

 

 

彼は一瞬探るような目で私を見た。

 

 

 

「今は私の幼馴染“雲雀恭弥”としてここに居るのよね?」

「・・・・・・そうだよ」

「なら話すわ。でもボンゴレの人達には黙っていて。――――私の敵じゃないとは言い切れないもの」

 

 

 

幼馴染売る程薄情じゃないわよね?

そう薄っすら笑みを浮かべて脅しに掛かる。まあ効かないのは分かってるけど。

 

 

 

「わかったから、さっさと話しなよ」

「はいはい了解です」

 

 

 

面倒臭そうに、軽く言ってはいるけれど。彼は約束を破ったりはしないから。

 

それに少し安心して、日本茶を啜って一息つく。

 

 

 

「・・・・・取り敢えず、私が何で突然消えたか、よね」

 

 

 

雲雀は静かな瞳でこちらを見つめている。ふざけた答えを言えば、即座に殴られるかもしれない。

それは流石に遠慮したいので、まず簡潔に述べて反応を見る。

 

 

 

「結論から言えば、とあるマフィアに誘拐されたの」

「・・・・誘拐?」

「家族ごとね。あ、別に恨み買ってたからじゃないわよ、無差別だったらしいから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「しかもすぐイタリアに連れてこられたし。警察が探しても見つからないはずよね」

 

 

 

彼は探してくれただろう。きっと、彼の持てる全ての力を使って。

だが私も彼もまだ幼かった。どんなに賢くても、それは子供の中ではの話。

 

大人には勝てない。世界はあまりにも、広いから。

 

 

 

「―――それで、逃げるときにかなり凄まじいことやったし今私が実行犯だと分かると殺されるというか」

 

 

いや殺されるつもりは無いんだけどね?でも多勢に無勢って言うじゃない。

 

 

「他にも山ほど後ろ暗い事があるの。別にどこかのファミリーを裏切ったとかそんな事はしてないけど。

マフィアにも依ると思うんだけど、ボンゴレが敵かどうかは目下調査中。白だったら詳しく話してもいい」

 

 

 

彼はこの部屋から一歩でも出れば、ボンゴレ所属の幹部マフィアに戻るのだから。

命令される立場に置かれてしまう。・・・いやそれ以前によく恭弥のような男が誰かの下に付いたものだ。

 

 

 

「以上、私からの報告終了。恭弥がマフィアである限り、今の時点では何も話せない。私の命に関わるから」

「・・・・・白だったら話すんだね」

「もちろん恭弥が望むなら。白か黒かの報告に行っても構わないわよ」

「なら、いい」

「・・・・・・・・・・うん」

 

 

 

答えを言わなくても、どうやら納得してくれたらしい。

私も、昔は約束を破らなかったから。――――ひとつを除いて。

 

 

 

「・・・・あ、恭弥」

「なに」

「・・・・・・その、あの時の約束・・・・沖縄一緒に行くっていうの、破っちゃったよね。ごめん」

 

 

 

ひとつだけ。守れなかった約束があった。

誘拐される少し前に交わした約束。

私だけが行きたかったのかもしれなかったけど。

 

約束は約束だ。

 

 

 

「――――君は、超弩級の大馬鹿者だね」

「え、それ喧嘩売ってるって解釈していいわけ?安売りなら買ってもいいけど?」

「自覚が無いだけ重症だ。・・・・まぁいいけど」

「だから何が。はっきり言えはっきり」

「言って分かるようなら苦労しないよ」

「・・・・・・あのねえ・・・」

 

 

 

何かと頭に来る台詞を吐いてくれたが、取り敢えずこの日はそれで許してくれたようだった。

 

 

 

そうして我が幼馴染、雲雀恭弥は。

 

――――真剣で泊まっていきやがりました。

 

 

 

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