恭弥がここに来た日から丁度一週間。
善良な一般市民として休暇を満喫できたのは、その電話が掛かってくるまでだった。
灰色の夢
昼食後、テレビを見ながらぼうっとしていると、突然私の携帯が鳴った。
それは非通知だったが何となく誰だか分かった気がして電話に出る。
「はい」
『やぁ』
「ごめん切って良い?」
『地中海に沈みたいならね』
案の定、十年ぶりに再会した我が幼馴染、雲雀恭弥だった。
彼とは無理矢理泊まっていかれた日から一度も会っていない。
大きな仕事があると言っていたが―――そのカタがついたのだろうか。
「それで、どうしたの?」
『君、暇だよね。今すぐ来てくれる』
「どこに」
『本部』
「なにゆえ」
『来たらわかるよ』
「・・・・。依頼だったらお断りするけど?」
『ボスが話したいって』
「・・・うわ・・・」
食えないボス、死神と呼ばれるヒットマン、そして恭弥の“お友達”――
この一週間、ずっとボンゴレのことが頭から離れなかった。本当に興味があったから。
・・・・・だから私は、自分の立場を忘れて、承諾してしまった。
「・・・・わかった、行く」
『じゃ、出来るだけ早くね』
「はいはい」
それをほんの少し後悔する事に、なる。
出来るだけ早く、と言われたので適当な大通りでタクシーを捕まえ本部の近くで下車する。
流石に直接乗り付けるような真似は恐ろしくて出来なかった。巻き込まれる運転手も可哀想だし。
その後徒歩で十分ほど移動し、本部ビルに到着。先週とは違った思いでその建物を見上げた。
――やはり、大きい。
「あ、さん!!」
いきなり名を呼ばれそちらを振り向くと、先日の再会劇に居た唯一の女性が大きく手を振って飛び跳ねていた。
「こっちです!」
確かハル、と呼ばれていた。情報部の。
「こんにちは、ええと・・・・」
「そう言えば前自己紹介してなかったですね。三浦ハルです。よろしくお願いしますっ!」
「こちらこそ。・・・・その、先日はどうも見苦しいところを・・・・」
「いえいえ面白かったですよ!あんな雲雀さん初めて見ましたし、目の保養ですね!
いつもむっつり何考えてるのか分からない人なので、本当に驚きですミラクルです!!」
いや、目の保養ってなに。
「・・・・はっ。ハルだけが喋ってますね!すみません中にどうぞ」
そして女性に先導され、前回と同じエレベーターに乗り込む。やはり行き先は最上階だった。
違うのは、お付の黒服の男共がいないことか。そこまで警戒しなくてもいいと、そう判断が下されたのだろう。
嬉しそうににこにこしている彼女をちらりと窺い、私は慎重に口を開いた。
話が聞きたいというのは恭弥から聞いてはいたが――確認のために。
「あの、それで今日は何を・・・・」
「お茶会だそうです。ツナさ・・・・じゃなかったボスがさんと是非って言うんですよ。はひ、モテモテですねぇ。
でもってハルはさんをお迎えにあがりましたっ。あ、着きましたね。では行きましょ―!」
途中の妙な言葉に突っ込みを入れる暇も無く、最上階に着いた私はそのままズルズルと引き摺られていった。
とても行動力があり、少々人の話を聞かずよく喋り、それでいて何故か憎めない、明るくて可愛らしい女性。
私とは正反対。
・・・・・・・・・それが彼女に対する第一印象だった。