私は獄寺隼人を、名誉毀損で訴えたいと思います。
それこそ侮辱だっつーの。
灰色の夢
見覚えのある重厚な扉の前に立つ。
中の気配は三人だけ。ボスと、多分目付きの悪い青年と、ヒットマンの少年だろう。
「ハルです、さんお連れしました!」
軽いノックと共にハルは言う。中から是と応えがあり、私達は部屋に足を踏み入れた。
前回のように、あからさまな殺気は向けられなかった。
・・・・・探られてはいるが。
「お邪魔します」
「来てくれてありがとう、さん」
「いえ・・・・暇なものですからお気遣いなく」
入るなり私に労わる言葉をかけてくれるボンゴレ十代目ボス。名を――沢田綱吉、という。
このボスには、何かこう、圧倒されるような空気を感じる。
にっこりと微笑まれると、特に。
「今ちょっと雲雀さんは外しててね。後から来るよ」
「いえそのあたりも本当にお気遣いなく」
「ならいいんだけど。ほら、知らない人間に囲まれるのってあんまり気分良くないでしょ?俺嫌なんだよねそういうの」
知らないマフィアに囲まれるのはもっと嫌だと思いますが。
なんてことはおくびにも出さず私は笑い返す。
「皆さんは恭弥の『お友達』ですし、そんな事はないです」
まだ言うか、と突っ込まないで欲しい。
私がボンゴレに興味を持ち、自ら此処に来たのも、ひとえにその事実があるからだ。
友達云々は抜きにしても彼が此処に居続けているというそれが私を動かしている。
「っだあ!何であんなトンファー野郎と友達になんなきゃなんねーんだ!!」
(うわ、喋った)
前来た時には殺気を向けるばかりで銅像のように口を開かなかった目付きの悪い青年が、思い余ったように叫ぶ。
「ちょ、獄寺く」
「おいてめぇ訂正しろ!ってかそれは侮辱だっつーの!!」
「え。一応褒め言葉なんですけど」
「どこがだ!!」
いや全てが。
こんな奇特な人達を私は知らない。
「もー、獄寺さん五月蝿いです!早くお茶にしましょう!」
折角焼いたスコーンが冷めちゃうじゃないですか、とハルは文句を言ってさっさとこの間のソファへ。
その様子に出鼻を挫かれた青年は、忌々しそうに舌打ちをしてその後へと続いた。
まあ彼の言いたい事が分からない訳ではない。
というよりああいう反応を見たかっただけなので、ぶっちゃけ満足している。
「はいできました!さん、ここに座ってくださいね」
「有難うございます。三浦さん」
「あ、ハルって呼んでください!あんまし苗字使わないですし、慣れなくて」
「じゃあ、ハルさん」
「むぅ。呼び捨てでいいんですけど・・・・・・」
「いえそういうわけには」
私はこのファミリーではないし、マフィアですらない。
ただのしがない情報屋だ。
恭弥の幼馴染だからといって彼らの仲間なんかに入れない。
「まぁそれはおいおいということですね!」
おいおい。おいおい?
「そうだね。ゆっくりやっていけばいい」
ゆっくりやっていく?
「・・・・もしコイツが雲雀の女バージョンだったらどうするんすか・・・・」
「修理費がかさむな」
獄寺が不満気に呟くと、リボーンはさも可笑しそうにくつくつと笑った。
ちょっと待て。
こいつら、私がボンゴレに入る事前提で話してやがる。
(私が雲雀の女バージョン!?・・・あんなの世界に一人しか居ないわ!他に居てたまるか!!)