他愛の無い話。

私はいつ本題に入るのかと心持ち構えながら紅茶を飲む。

 

そしてそれは実にさりげなく、自然に会話の中に浮かんできた。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

 

さんは、情報屋なんだよね。でも『』っていう名前のは聞いたことがないんだけど」

 

 

 

ボスは微笑を絶やさず、柔らかな口調で聞いた。

なるほどね、と私は思う。少しは調べてみたらしい。・・・・でも、甘い。

 

 

 

「それはそうです。私休暇中は善良な一市民として生活していますから、この名前は日常用なんです」

「日常用?」

「年がら年中仕事をしているわけじゃありませんし、疲れますので」

「そうだよね・・・。あの、聞いてもいいかな?」

 

「はい。情報屋としての通り名は――――『Xi』、と」

 

 

マフィア絡みの仕事は殆どしていないから知らないだろうなぁ、と思いつつ。

 

しかし。

 

 

 

「っ『Xi』!?」

 

 

 

一瞬の間があって、突然ハルが大声を上げた。

私は少し驚いた。ボンゴレ程の情報部だったら、もしかしたら名前ぐらいは流れているのか。

 

 

 

「な、何だいきなり」

 

 

 

大声に驚いて半ばのけぞった獄寺。ボスとリボーンは辛うじて肩を揺らす程度で済んだらしい。

ハルは仲間の状態に露ほども気付かず、そのままこちらの方に身を乗り出してきた。

 

 

 

「さ、『Xi』って・・・・・・・・えぇと、“あの”『Xi』ですか!?」

「・・・・・・・・・多分、その『Xi』だと思いますよ」

 

 

 

他に『Xi』と名乗っているような人間を知らない。情報屋の私が言うのだから間違いない。

曖昧な会話に他の三人は訳がわからないといった顔をしている。

 

一方ハルは俯いて、何故か震えだした。

 

大丈夫なのだろうか。

 

 

 

「・・・・・・・・・あの、大丈」

「っっっ凄いです!」

 

 

・・・はい?

 

心配になって彼女の顔を覗き込もうとすると、ハルはいきなりガバリと頭を上げ、目をキラキラさせて叫んだ。

 

 

 

「うわー、うわー、か、感激ですっ!握手して下さい!!」

 

 

 

がしっ。

ハルは有無を言わせず私の両手を掴んで、上下に振りまくった。

そんな感激されるような事をした覚えは無いのだが。

 

・・・・まさか、妙な情報が出回ってるわけじゃないでしょうね。

 

 

 

「おいアホ女。一人で盛り上がってないで説明しろ」

「アホ女じゃないです!・・・あのですね、情報屋で『Xi』っていったら、その世界では超有名なんですよ!!」

 

 

それは認める。

 

 

「そうなの?」

「はい!仕事は迅速かつ的確、情報の鮮度も抜群でもう知る人ぞ知るって感じです!」

「・・・にしちゃ、俺は聞いたことねーぞ」

 

 

 

リボーンは少し不思議そうに呟く。

 

そう。マフィアに広く知られるような行動をとった覚えは無い。

マフィアからの依頼を『直接』受けたのは唯の一度きり・・・・・・キャバッローネファミリーだけだった。

 

あのファミリーは結構悪くなかったと思う。変なボスが居て―――

 

 

 

「ええ。ハルは偶然知ったんですけどあのディーノさんが絶賛してて、気になって調べてみたんです」

 

 

―――って、情報流しやがったな、あの金髪!

 

 

「そしたらもう武勇伝ばっかりで。『Xi』が居る所為で同業者の収益が下がりっぱなしだから命を狙われる程だとか。

―――――あ、それとですね」

 

 

 

武勇伝って何だ。

それに確かに恨まれてはいるが、そんなものただの僻みだろう。

 

突っ込む暇も無く、ハルは自らの拳をぐっと握って更に続けた。

 

 

 

「超が付くほどのマフィア嫌いでも有名なんです!だからこっちではそんなに名前を聞かないんですね!!」

 

 

 

すっごくイイ笑顔で、私にとっては一番言って欲しくない事を。

 

 

 

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