私はあの場所から逃げるために武器を取った。
躊躇いなどなかった。
そんな事を考える余裕などなかった。
あの夜、私は確かに狂っていた。
灰色の夢
『フィオリスタ・ファミリー』
マフィアに属する人間で、その名を知らないものはいない。
彼らはたった一夜で壊滅した。
何者かによって、一人残らず惨殺されたのだ。
ファミリーの拠点であった建物は彼ら自身の血で赤く染め上げられたという。
その凄惨さ故に、『赤き惨劇の夜』として今でも語り継げられている。
犯人は未だに分かっていないが――――彼らが私を誘拐した張本人であることは、紛れも無い事実である。
「・・・・さん?どうかしましたか?」
その声にいえ、と反射的に応えつつ、私は目を瞬かせる。
血腥い過去を思い起こしてしまい、少々意識を飛ばしていたらしい。
今はボンゴレのお茶会中だった。しかもファミリーに勧誘されている真っ最中である。
「大丈夫です」
私は誤魔化すように笑って、紅茶を含む。今はボンゴレの勧誘の事を考えよう。
やはり、ひとつのファミリーに縛られるのは行動が制限されてしまう。
・・・・・・・断るしか、ない。
だがどうやって?
私が―――超危険人物だと言ってみるか?
あの惨劇を引き起こしたのは私だと・・・・信じはしないだろうが・・・・いや逆に粛清の対象になるかも・・・
それはマズい。今は絶対死ぬわけにはいかない。
まだやりたい事が・・・・やらねばならない事が、ある。
「・・・・・ひとつ聞く」
「・・・はい?」
沈みかける思考を引き上げたのは、リボーンの静かな声。
その瞳は鋭い光を放ち、こちらを見据えている。訳も分からず背中に汗が流れた。
何を言おうとしているのか見当もつかないが、決して愉快なことではなさそうな―――
「何でしょう」
「お前情報屋だろう?」
「ええ、そうですけど・・・・」
先刻から、いや一週間も前からそう言ってますが。
「それ以前にどこかのファミリーに入っていなかったか?」
「はあ?」
何でそうなる。私はマフィアが大嫌いだとハルがばらしたばかりなのに。
思いがけない言葉に、私はつい失礼なほど不躾な声を上げてしまう。
「私は一般人ですってば。そんなものと関りたくも無いのに、入るなんて芸当できません」
あの頃。キャバッローネや他のまだましなファミリーに会うまでは、全てのマフィアが憎かった。
入るぐらいならこの首掻っ切って死んだ方がマシだと・・・・本気でそう思っていた。
世界は広いのだと、気付けなかったあの頃は。
「リボーンちゃん、どうしたんですか?」
「リボーン?」
少年は応えず、私だけを見つめている。
「なら、答えろ」
ざわりと空気が騒ぐ。
殺気に近いそれは、確かに私に向けられていた。
「お前、何人殺してる?」