長い間思い出さないようにしていた過去。
まかり間違ってボンゴレに入る事があるとするなら、いつかは通らねばならない道だ。
灰色の夢
「276人です」
コンビニのレジ係のような口調で、私はさらりと告げた。
ぎゃあぎゃあと騒いでいた二人は見事に動きを止め。
ハルはあんぐりと大口を開け、獄寺はかくんと顎を落とし。
恭弥は。
「・・・・・・・・・・君、いちいち数えてるの?」
どこか的外れなコメントを出した。
軽蔑された様子も何もないことに安堵して、私は笑う。
あの夜。
ただの一人も逃がすつもりなんてなかった。
だから数えた。殺しながら。気が遠くなりそうな血溜まりの世界で、必死で数えた。
・・・・頭のどこかで、今もそのカウントは続いている。
「私、暗記は得意だもの」
「・・・そういう問題じゃないと思うけどね・・・・」
私が死ぬまで、きっと、止まらないのだろう。
「ボス、こいつやっぱり女バージョンですって」
「・・・・う、うーん・・・・」
「一緒にしないで下さい好きでやってる訳じゃないんですから」
「何の話」
「「何でもないデス」」
ボスと声が合ってしまった。目を見交わすと、苦笑される。
どういう意味だ。
「・・・・・・・・っ、あの!お茶入れなおしてきますね!!」
突然ハルが立ち上がり、紅茶を回収し始めた。
少し様子が可笑しい・・・?
やはり女性にはこんな話聞かせるべきではなかったか。
「ハルさん、すみませんけど」
「はい?」
「お手洗いを貸して頂けませんか?」
「・・・・・自然が呼んでるわけだ」
「―――――――」
隣でボソッと呟いた恭弥に、反射的に掴んだスコーン用のナイフを突き刺した。
勿論、手首を掴まれて止められたけど。
「・・・恭弥。もう少しデリカシーっていうものを学ぶべきだと思うわ」
「デリカシー、ねぇ」
何それ美味しいの、と副音声が聴こえるようだ。
「全く・・・・」
私は諦めて手を離す。
とにかく、一度離れるべきだと思った。
少し落ち着かなくてはいけない。
そして彼女に少しフォローしたかった。嫌な気分にさせたなら謝りたかった。
「了解です!一緒に来てください!!」
ハルは慣れたのか私達のやりとりを軽くスルーして頷いてくれる。
・・・・・・その笑顔には、先程感じた翳りのようなものは全く見られなかった。
「ではボス、行ってきますね!!」
「うん、頼むよ」
そして洗面所で顔を洗って化粧を直し、新しく紅茶を淹れたハルと共にあの部屋に帰ると。
私はある人物と、思わぬ再会を果たした。