晴れてハルとパートナーとなった私は、彼女を連れてボンゴレ本部から出た。

 

情報屋には、色々準備があるのです。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

私は見慣れた扉に手を掛け、ハルよりも先にその店に入った。

 

 

 

「こんばんは、マスター」

「・・・・・・・・・・・お前、生きてたのか・・・・・・・!!」

「それ少し失礼ですよ?」

 

 

 

そう。

例のアノ店である。

 

マスターは驚いたように私を見て、それから随分と深いため息を吐いた。

 

 

 

「・・・・無事なら連絡のひとつぐらいしろってんだ」

「いえそれがボンゴレのお陰で何かと忙しくてですね、忘れてたんですよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

有り体に言えば、ここで起こった事件の所為。

更に言えば、マスターの電話の所為。

 

微笑みながらそう言うと黙ってしまった彼は放っておいて、私はハルを奥の部屋へと促す。

彼女が誰かなど、知らせる必要などない。知らなくていいことは知らずにいた方がいい。

 

 

―――彼は決して、マフィアではないのだから。

 

 

 

「マスター、今日は奥の部屋借りますね」

「・・・・・部屋代上乗せな」

「・・・ケチくさ・・・」

 

 

 

何処のホストクラブだここは。と些か不満に思いつつ。

私は適当なつまみとお茶を用意して、ハルが待っている部屋へと入った。

 

別料金のわりには、特に大したことのない内装である。ぼったくりもいいところだ。

 

 

 

「待たせてすみません。紅茶で構いませんか?」

「あ、はい、お気遣い無く!」

 

 

 

それらをテーブルに置いた後、私は彼女と向き合うようにして座った。

見慣れぬ部屋に緊張しているのだろうか、多少そわそわと落ち着かない素振りを見せている。

 

私は話を始める前にどうしても気になっていたことを聞いてみた。

 

 

 

「・・・あの、ハルさん」

「はい?」

「その胸に付けてるコサージュ、盗聴器ですよね?」

 

 

 

間。

 

 

 

「・・・・は、はひっ!?」

「やっぱり。ボンゴレを出た時からちょっと気になっていたんです」

 

 

 

慌てた様な声を出して肩をビクつかせれば肯定しているのと同じだ。

 

 

 

「す、すみませ・・・・」

「いいんですよ。私が同じ立場ならそうしますから」

「・・・さん・・・」

 

 

どうせ自分の意思ではないだろうに、ハルは申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ている。

・・・・・・そんなに思いつめる事じゃないのだけれど。

 

少し可哀想に思った私はある物をポケットから出し、ひらひらと振って見せた。

 

 

「・・・それに・・・私もこれ、使ってますし」

「それは・・・?」

「盗聴妨害器です」

 

「・・・・・えっ。」

 

「ボンゴレの方には申し訳ないんですが、この店に入る前にスイッチ押しちゃいました。今全然盗聴出来てない筈ですよ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「だからお互い様です。気になさらないでくださいね」

 

 

 

そう言って私がにっこりと微笑むと、ぽかんとしていた彼女は徐々に回復し。

 

複雑な色を残しながらも笑い返してくれた。

 

 

 

「・・・・やっぱり流石です・・・・・」

「年季の差、って奴ですよ」

 

 

 

あんなに心配していたのだから、ボンゴレのボスは今頃慌てまくっているかもしれないが。

 

情報屋『Xi』から情報を盗もう等と考えるのは――――百年早い。

 

 

 

自業自得だ。

 

 

 

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