多分尾行は撒いた。
盗聴も無い。
・・・・これでやっと本題に入れる――はず、だったのだが。
灰色の夢
疑問を解消し、すっきりした所で私は打ち合わせを始めようとした。
「それじゃ、ハルさん。これからの事なんですけど・・・・・・」
「ちょっと待ってください」
だが、いきなりハルが制止をかけた。まだ何かあるのだろうか。
「何でしょう?」
「・・・・・ハルは、さんのパートナーですよね」
「ええ、勿論」
「だったら!」
彼女はどこか思いつめたように私を見上げる。
妙に目が潤んでいるのは気のせいだろうか・・・・あ、もしかしてボスを陥落させた先刻の泣き落としを・・・・?
何か嫌な事でもあったのだろうか?盗聴器の事がマズかったのか?言い方が少しきつかったか?
そもそも私は女性に泣かれるのは好きじゃない。
それが例え嘘泣きであったとしても。
「ハルって呼んでください!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
「あ、それと敬語も止めてくださいね。ハル達はパートナーなんですから!」
言いたいことは分かる。分かるけど。
まるで告白みたいに言わなくてもいいじゃないか。
がしりと掴まれた手を振りほどけないまま、私は硬直した。
「あ――・・・、でも、ハルさんだって敬語でしょう?・・・・敬称だって」
「ハルは誰に対してでも敬語です。でもさんは違うじゃないですか。ほら・・・雲雀さんとかにはタメ口ですよね」
「・・・・・・まあ、幼馴染だし・・・?」
「それにハルって呼んでくれたら、ハルはちゃんって呼びます!!」
「げ」
それはちょっと、いやかなり微妙かもしれない。
慣れないし何より聞きたくない。・・・・ちゃん。考えただけで寒気がする。
・・・・とうとう私は根負けしてしまった。
「・・・いえ、お願いですからそれだけは止めてください・・・・」
「えっでも、」
「敬語止めますハルって呼びます」
「本当ですか!?有難うございます!!」
泣き顔から一転、輝かんばかりの笑顔へ。
それにほっと安心しつつ、これが演技でない事を祈ることにする。そんなのはあのボス一人で十分だ。
「・・・あ」
「ハル?」
「これ、ボンゴレ入りの為の第一歩ですね!」
「いや違うから。」
そういう意味じゃないでしょうに。
「・・・もう。さんって頑固ですねぇ。では、私がボンゴレ・ファミリーの素晴らしい所を教えて――」
「余計な情報は結構よ」
ホント冗談じゃないって。
この日から、私はハルに対して恭弥にするように・・・とまでは行かないが、かなり軽い口調で喋るようになる。
そんな私を横目に、ハルが
(・・・さんって、結構押しに弱いんですね・・・・)
等と考えていたのを知ったのは、かなり後になってからだった。