夢を見るのもいい。
理想と現実の違いを、目の当たりにするまでは。
灰色の夢
「じゃあ、ハル。本題に入ってもいいかしら」
「はい!」
一悶着の後、やっと打ち合わせを始めた私達。
「まずは仕事内容の確認からね。今回私達がすることは?」
「キャバッローネファミリー内の麻薬取引斡旋者を割り出す事、ですね」
「そう。・・・・・・ハル、ここにディーノさんから貰った資料があるの」
「資料、ですか?」
「彼が独自に調べた―――まぁ所謂『怪しい奴』のリストね。ハッキリ目星がついたわけじゃないけど参考までに、って」
『わからない』とあれだけ否定していたのは誇張だったのかどうなのか。
・・・これから調べれば分かる事だが。
「あ、じゃあそれを洗い出せばいいんですか?」
「そういう事」
こんな風に確認を進めながら、私は思う。
初めて会った時は、何でこんな女性が情報部なんかにいるのだろう、なんて考えていた。
でも今相対しているとそれ程愚鈍じゃないことが分かる。
ハルは中々頭の回転が速いし、自分というものを良く知っている。それはとても重要な事だ。
・・・・ただ嘘が顔に出る、というのは情報を扱う者にとっては如何なものかと・・・・・
「ハルの出番、無さそうです・・・」
「まさか。それからに決まってるじゃない」
「え?」
「洗い出した位で出てくる様な情報なんて、大した価値もないわ。・・・誰に見せても納得するような、『確固たる証拠』とやらを探し出さなくちゃ」
「・・・・・・確固たる証拠、ですか・・・・・・・・えぇと・・・・・・・・・・・あ、わかりました!潜入捜査ですね!?」
「もしくはスパイとも言う」
「す、スパイ!?」
案の定と言うべきなのかどうか。
その単語を聞いたハルは目を輝かせて呟いた。
「・・・・・か、かっこいい響きですね!デンジャーです!!」
「いや映画とかの見すぎだから」
危険なのは確かだが、多分彼女の思っているそれとは次元が違う。
そんな良いものじゃない。
見つかれば問答無用で殺されるか、背後関係を吐かせる為に拷問されるかだ。
彼女にその覚悟があるのだろうか?
・・・・最も今回はディーノの手引きがある。
彼女が少々へまをした所で大事にはならないだろう。
あのボスだって。・・・大事になんか、させるはずもない。
「ところでハル。貴女、ボンゴレの本部に住んでるの?」
「・・・いえ。本部に住んでるのは幹部の人達だけで・・・・」
彼女はほんの少し顔を翳らせ、俯いてしまった。
そういえばお茶会のときもこんな感じだったような・・・・。
私は気付かない振りをして続きを促す。
「ハルは・・・ちょっと離れた一軒家に住んでます」
「一人?」
「はい」
「ペットも?」
「いません。いざという時は邪魔になりますから」
「・・・・そう。なら、少しばかり家を空けても構わないわね?」
「それは勿論です・・・・けど」
不思議そうな顔で首を傾げるハルに、私は親しげな笑みを向けて言った。
「それなら話は早いわ。一緒に住みましょう」