何はともあれ、新生活の始まりだ。

 

え、なに。・・・・金遣いが荒い?

有り余ってるんだからいいじゃないの。

 

 

灰色の夢

 

 

 

「・・・ど」

「ど?」

「ど、どど、同棲ですか!?」

「・・・・・・・・そんなに驚く事?」

 

「い・・・・いえあの、さん・・・・ハルには心に決めた人が」

「やかましい」

 

「いたっ!」

 

 

 

私は心持ち手加減しながら手元の資料でハルの頭を叩いた。

彼女の言う事は本気なのか冗談なのか、判断がつきにくい。

 

 

 

「―――っさん酷いです・・・・」

「あのね・・・・・。同居、って言い直した方がいい?」

「あ、そうならそうって言ってくださいよ!」

「私は一緒に住むって言っただけで妄想したのはそっち」

 

「妄想・・・」

 

 

 

ハルはむぅ、とかうぅ、とか唸って黙りこくる。

どうやら心当たりでもあるらしい。妄想癖持ちか・・・・。

 

 

 

「つまりは、諜報活動をする以上、ボンゴレとの繋がりを匂わせる行動は慎むべきなの」

「新たな拠点を作るんですね」

「その通り」

 

 

 

それが分かるのにどうしてああいう発言をするかな。

 

妄想癖だと仕方ないのか?・・・仕方ないのか。そうなのか。

 

 

 

「えーと、家具とか運び出しますか?」

「買うからいいわ」

 

「・・・・・・・・はひっ!?何言ってるんですか!買うなんて勿体ないです!!」

 

「住む所も買うから心配しないで」

「、な―――」

 

 

 

確かに彼女にとっては驚くような事かもしれないが、私にとってそれは極普通の事だった。

諜報活動をする場合、最も忌避すべき事は・・・素の『私』を知られること。

だから仕事を始めるときは『私』からなるべくかけ離れた存在に擬態するのだ。

 

部屋を借りる、なんて中途半端なことはしない。なるべく人とは関らないように・・・・まあ私のこだわりに近いかもしれないが。

 

 

 

「普段の色は絶対に出さない。家具ひとつとっても、私達へと繋がるようなものは排除しなければならない」

「それ、は・・・わかりますけど・・・ちょっと抵抗が・・・・」

「勿論終わったら売るわよ?」

 

「売る!?」

 

「大きい物だろうが小さい物だろうが、のみの市に出してしまえばいいのよ。全部処分すれば多少戻ってくるわ」

 

 

 

元を取れる・・・という訳ではないけれど。捨てるよりは遥かにマシだ。

 

それにそういった所で家具を売る人はそうそう珍しくもない。

偶に中古品を取り扱う店の人が来たりして、ごっそり持って行ってくれるときもある。

 

 

 

「で、ハル。理解してくれた?」

「・・・・・・はい。何とか」

「良かった。じゃあ行きましょう」

「へ、何処にですか?」

「何処って・・・・買い物よ。もう部屋は押さえてあるから、家具とか食器とか日常消耗品とか」

 

「そんな何時の間に!!」

「企業秘密」

 

 

 

そして私達はマスターに料金を払い。(もちろんしっかり部屋代を取られた)

日が傾き始めたイタリアの町へと繰り出した。

 

 

「取り敢えず最初は服屋ね」

「?」

 

「その黒いスーツは目立つわ」

 

「・・・・・・・さんの、その真っ黒な服もですよ」

 

 

 

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