ボンゴレに試されているとしたら、何となく面白くない。
灰色の夢
次の日の朝。
私達は昨夜のうちにディーノに連絡を取り、キャバッローネに潜入する旨を話した。
彼はどうやら客人用のパスを作ってくれるらしい。これで大分自由に動けるし、危険も少なくなる。
今日の午後に一度下見に行くことにして、私達は遅めの朝食を摂った。
「まあ別にね?最初にあれだけ言われたんだもの、無理難題だっていうのは承知してたわ」
「う・・はい、そうですね・・・」
私の口からは愚痴が零れる。どうしても話題がそちらへと向かってしまうのだ。
多少肩透かしを食らった位で影響は無い。
長期戦の覚悟は、出来ていた。
・・・・・・・・・しかし、この溢れる苛立ちは不可抗力だと言いたい。
「だから別にあの金髪が役に立たなかったって全然構わないのよええホントにもう全く」
私が目を半眼にさせて吐き捨てるとハルは慌てたようにこう言った。
「ほ、ほら!きっとその資料書いた時、ディーノさん一人だったんですよきっと!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
フォローになっているのかいないのか。微妙な所だ。
しかし、ディーノが用意した資料が何故こうも見事なまでに引っかからなかったのだろう。
誰かがそう仕向けさせたとか?・・・仕向けることが出来る人間といえば、側近か、古株の実力者か。
何にしても調査は難しそうな気がする。
「・・・・・・・・・・・?」
そこまで考えて、ふと、何か視線を感じたような気がして私は顔を上げた。
ハルではない、どこか探るような視線。
「ハル、紅茶おかわり」
「了解です!」
「頼むわね」
ハルを台所へ追いやり、私は意識を四方八方に広げる。隣接する部屋から外、そして道路を挟んだ向かいの―――
ビジネスホテル。
・・・・そこだ。誰かが私達を見ている。敵意は、無い。
この場所を知っているのは・・・私とハルと、・・・・ボンゴレの連中のみのはず。
「はい、どうぞ」
「ありがとう・・・・・・・・・ねぇ、ハル」
「何ですか?」
「誰か監視に来てるの?」
何気なくさらりと問うと、数秒の沈黙の後ハルは答えた。
「・・・えと、知りませんけど」
表情は大して変わらなかったが、目が泳いでいる。
確かに以前の盗聴器騒ぎのときよりはマシではあるが、バレバレだ。
「・・・・・・嘘、下手ね」
「うっ・・・」
「誰?」
「それは、知らないです」
「そう」
これは嘘ではなさそうだった。
しかしボンゴレの誰かが私達を―――ひいては私を監視しているのは確実だ。
今まで散々人にやってきておいて言うのもなんだが、監視されるのは好きじゃない。
それに私を害する意図が無くても。
「あの、ごめんなさ」
「いいのよ謝らなくても。どうせ指示を出したのはボスでしょうし?」
「・・・・それは、そうですけど・・・・」
「信用されるには時間が要るわ。仕方ないわね」
私は穏やかに笑ってハルを宥める。そう、今更あれこれ言っても仕方がない。
こちらで処理すればいいだけのこと。
それだけの事だ。
「それにしても・・・ハルは情報部でしょう?」
「そうです」
「この先情報部で生きていくなら、嘘の一つや二つ、吐き通せなきゃ駄目よ」
「・・・・・・あ、・・・・」
「まだまだ精進あるのみ、ね」
「はいぃ・・・・」
嘘だって吐き通せば真実になるのだから。