普段は掛けない伊達眼鏡をかけて。

『普通っぽい』服に着替えて。

 

―――いざ、下見へ。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

「ハル、準備出来た?」

「・・・・っはい、今出来ました!」

 

 

 

そう言って洗面所から駆けてくる彼女は、何処から見ても一般人だった。

もとよりマフィアの黒い面に殆ど関っていないのだから当然か。

 

一方私もそこらの通行人のように装った服装と化粧をしている。

 

今日のテーマは『休日の独身会社員』だ。

 

 

 

「ふむ。中々の出来ね」

「そうですか?・・・・ハル、こんな服着るの久しぶりです」

「ええ、私もよ」

 

 

 

パスが出来るのはもう少し時間がかかるので、今日はキャッバローネ本部の外側から観察するだけ。

それにディーノが部下を引き連れて出かけるらしいのでその様子と側近の顔も拝んでおきたいのだ。

 

もしかしたら何かが分かるかもしれない。分からなくても今日は下見だから構わない。

 

ウォーミングアップ、といった所か。

 

 

 

「それじゃ、行きましょう」

「はい!!」

 

 

 

私達は玄関に向かい。

ハルが先に靴を履いて・・・・・・ふと部屋の方に目を向けて言った。

 

 

 

「あ、さん居間の電気付けっぱなしじゃないですか」

「それはいいのよ」

「・・・・はい?電気代が・・・・」 かかりますけど。

 

「消して行ったら如何にも『出掛けました』って公言してるようなものじゃない。物騒な」

 

「へ」

 

 

 

私は一瞬言葉を失ったハルを外へ追い出し、自分も靴を履いて出た。

何か言いたそうなハルを横目にドアの鍵を閉める。

 

 

 

「や、あの・・・さん。ハル達何も疚しい事なんかしてないですよ?」

 

 

 

見張っているのはボンゴレだけなのだから、と。

 

しかし。

 

 

 

「うん、ごめんハル」

さん・・・・?」

 

「私、ね・・・・・・・・監視とかされるの、大っっっ嫌いなの。」

 

 

 

心持ち声を高く、語尾にハートマークを付けるつもりで言う。

 

私は予想通り口をぽかん、と開けたハルをずるずるとエレベーターホールに連れ込み、最上階のボタンを押した。

扉が閉まり、その小さな箱が動き出して漸く彼女は我に返った。

 

 

 

さんっ!?これ、上行ってます上!!」

「屋上に行くのよ」

「何でですかぁっ!?」

 

 

 

何の説明もなく振り回したのが悪かったのだろうか。

ハルは涙目になって叫ぶ。

 

でも無視。

 

 

 

「よし、着いたわ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

私はちらりとボンゴレの誰かが居るであろうホテルを一瞥した。

このマンションの方が高いため、見咎められる事は無いだろう。

 

念のためそのホテルには近づかないようにしながら屋上の柵へと近づく。

・・・・・・隣のビルはこのマンションと同じ高さ。そしてその間隔も60cm程度。

 

 

 

「・・・よし」

「よし、って何なんですかさん!説明してくださいっ」

「ごめんごめん。ちょっとここ、飛び移ろうと思って。」

「・・・・・・・・・・・・・・・は、い?」

「玄関も見張られてるだろうし、このビルって出入り口多いから何とか誤魔化せるでしょう」

「・・・・・・・・・・・え、えぇと?」

「じゃ、Let’s Go」

 

 

 

ハルの思考回路が正常に戻る前に彼女の身体を引っつかんで―――――跳んだ。

(勿論念の為、例の『ギア』を使用しております)

 

 

 

そして。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・大丈夫?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「降りるなら、今のうちよ?」

「・・・・・降りま、せん。ハルの仕事です」

「いい度胸ね」

「う。・・・・頑張ります」

 

 

 

そんなやりとりを交わしつつ、私達はキャバッローネ本部へと向かった。

 

 

 

 

 

 

丁度その頃。

 

「お、ツナか?」

『・・・山本?どうしたの?何かあった?』

「悪ぃ。逃げられちまった。部屋はもぬけの殻っぽいぜ・・・・何処に行ったかもわかんねーし」

『・・・・・・・・・・・。・・・・さんって、俺に何か恨みがあるのかな?』

「・・・・どーだろな・・・・?」

 

 

 

なんて会話があったのは、また別の話。

 

 

 

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