見覚えの無いはずの後姿に、何故かあの日の記憶が蘇る。

 

・・・あれは、誰?

 

 

灰色の夢

 

 

 

「ここが、そうなの?」

「はい。先刻の建物は第三支部で、こっちが本部です」

「まあ何というか・・・・でかいわねぇ」

「ですよね・・・。ハルも何度か来ましたけど案内無しには歩けませんでした」

「・・・・ボンゴレはもっと大きいじゃないの」

 

 

 

私達はキャバッローネの領域に着くと、散歩を装って一通りぐるりと回ってみた。

ハルは何度も足を運んだようだが、私は北支部にしか足を踏み入れた事が無い。

 

 

キャバッローネは5000人のファミリーを抱える強大マフィアだ。

本部一つでは足りず、幾つもの建物に分かれて運営されている。

 

・・・勿論、ボンゴレは更にその上をいくのだが。

 

 

今回は事が大きいだけに、先ずディーノの側近から攻めていくつもりである。

私達は窓から本部が見える軽食喫茶店で様子を見ることにした。

 

 

 

「確か、『彼』が出て来るのは14時すぎ、だったわね?」

「そうですね。重要な用事だって言ってましたし遅れることはないと思います」

「じゃあその三分前あたりに」

「了解です」

 

 

 

幾らあのはっちゃけたディーノでも、ボスである。

建物から出ると同時に車に入ってしまうだろう。その側近も。

見送りに来る側近だって重要かもしれないし。

 

それらを少しでも近くで見たいので、気取られないギリギリの死角に待機して盗み見ようという計画だ。

 

原始的ではあるがかえってその方がバレにくかったりする。

 

 

 

 

その時間まで、あと30分。

私とハルはパニーニを摘みながらその時が来るのを待っていた。

 

 

 

 

そして。

 

宣言どおり三分前になると私達は店を出て、見つけた死角に身を潜めた。

 

 

既に本部入り口は騒がしく、門の前に黒塗りの車が合わせて四台、白い車が二台用意されている。

静かに見つめていると、扉が開き黒服の男供がぞろぞろ出てきた。

 

私は一人一人確認していく。知っている顔がいないか、『Xi』のデータベースに載っている者が居ないか、を。

 

 

 

「・・・・・・・・ふぅ」

 

 

 

中々目ぼしい者がいないな、と思っているとようやくディーノが現れた。

重要な用事、と言っていたせいなのか、きちんとスーツを着ている。

 

何だか新鮮。

 

 

それからディーノ達が車に乗り込むまで観察していたのだが、やはり当たりは無い。

 

 

 

「・・・ま、そう上手くいくわけないわよね・・・」

「無理でしたか・・・?」

「ん――・・・・・」

 

 

 

私は顔を上げて、見送りの人間に目をやった。

若者に混じり、中年のおやじ風な男共、そして、白髪交じりの。

 

 

どれも知らない顔、のはずだった。

 

 

その時、全員が乗り込み終わったらしく、車がゆっくりと動き出す。

 

無意識にそれを目で追い掛けて――――反射的に振り返った。

 

 

 

頭の中で、何かが警鐘を鳴らしている。

しかし振り返ってみても大して見覚えの無い後姿があるだけ。

 

目を細めてみても、何も分からない。

 

 

 

ただ。

 

 

あの、白髪交じりの男。

 

 

その存在を意識すると、何故かあの惨劇の夜の事が頭を過ぎった。

 

 

 

――――何故。

 

そしてあれは、誰なのか・・・・・・・

 

 

 

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