出会いは必然。

 

望む望まないに関わらず、運命は廻る。

 

 

灰色の夢

 

 

 

を送り出して、ボンゴレに電話を掛けた。―――確認の為に人が来るという。

 

 

 

「さて、なにが来るやら・・・・」

 

 

 

半端な者は寄越さないだろう。名刺に書かれた名前を告げると、かなり慌てていたようだから。

が言っていた重鎮、というのも伊達ではないということか。

 

店の外に出て、看板を“準備中”に変えた。

 

 

「・・・・厄介事、か。ふん」

 

 

は、日本人だ。――――その名前に反して。今まで多くの人間を見てきたから分かる。

 

だからボンゴレに肩入れするのか。

そんな人間ではないと分かってはいるけれども。

 

 

店の外に突っ立ったまま考え事をしていると、後ろから声を掛けられた。

 

 

 

「貴方が店主ですか」

 

 

 

振り向くと、スーツ姿の男が三人立っていた。―――そのうち一人はまだ少年。

そのことにふと珍しさと微かな違和感を覚え、目を凝らす。・・・・すぐに後悔した。

 

『それ』と目が会った瞬間、ぞくりと体に震えが走る。ただ立っているだけで凄まじい威圧感を周囲に放っていて。

 

 

(・・・・・こいつ、『死神』・・・・!?)

 

 

ボンゴレ最強と謳われる殺し屋、リボーン。

また、声を掛けてきたのは――――これがマフィアかと疑うような、優男だった。

 

(優男・・・いや、まさかな・・・そこまでの偶然は、)

 

思考することでなんとか冷静さを取り戻し、こちらの言葉を待っているであろう連中に向き直る。

 

 

 

「はい、私が店主です―――ボンゴレの方、でしょうか」

「ええ、確認させて頂きます。入っても構いませんか?」

「っ、はいどうぞお入りください!」

 

 

 

柔和な顔立ちをしている優男の背後で、睨みを効かせている男がひとり。

 

はっきり言って、滅茶苦茶怖い。

ひとまわりもふたまわりも違う青年に圧倒される自分が悲しかったが、命には代えられない。

 

マスターは慌てて店の扉を開け、その中に案内した。

 

 

 

「あちら・・・・です」

 

 

 

示した場所には、が居た時のまま変わらぬ状態で横たわる死体が二つ。

真っ先に目付きの悪い男が駆け寄り、死体の顔を確認したりしている。

 

ふと、その男は声を上げ、優男を呼んだ。

 

 

 

「十代目!」

 

 

――――――じゅう、だい、め?

 

 

「間違いありません、奴です」

「急所一撃、撃ち合った形跡もない、と。・・・・・・・プロにやられたな」

 

 

 

もう会話など耳に入らない。

 

(―――――ボ、ボスが来た・・・・!誰だボスは動かないとか言った奴!!)

 

 

『ボスは直々に動くことは無いかもしれん』

 

 

(俺だ―――――!!!)

 

 

 

「あの、店主?」

「は、はいっ!すみません、何でしょう」

「何が起こったか、話していただけますね?」

「・・・っもちろんです!」

 

 

 

それからの事は綺麗に抜かして説明した。とてもじゃないが、嘘を吐けるような状況ではなかった。

少し揶揄う――と考えていたことなど宇宙の遥か彼方に吹っ飛んでいた。

ボスと思われる青年とその側近らしき青年はそれを大人しく聞き、時には鋭い質問をしてきた。

 

しかし、一流のヒットマンと思われる少年は何故かカウンターに置かれてあるのグラスに興味を示した。

 

 

・・・・・・・・どういう嗅覚だ。

 

 

 

「店主」

「何か?」

「ここには誰が座っていた?」

 

 

(いやだから何でそうなる)

 

 

「常連客の女性ですが」

「お前はそいつと話していたのか?」

「ええ。彼女はいつもここに座って、たわいない話をするのが常でして―――もちろん、今日も」

「・・・・・後から来た二人組よりも前に?」

「はい、そうです。この・・・・・方々よりは後でしたが」

「そうか」

 

 

 

そう言ったきり考え込む少年。

 

 

 

「・・・・どうかしたの?その女性が何か・・・」

「――――――」

「・・・・・・・・・」

 

 

 

少年はボスにの指定席を指しながら何かを耳打ちした。

 

始めは不思議そうな顔をしていたボスだが、座って、周りを見渡して何か納得したようだ。

 

 

 

「・・・・・・へぇ、よく『見える』ね」

 

 

 

(何がだ!!)

 

混乱中のマスターをよそに、何かを相談していた三人は素早く話を纏めこちらに向き直った。

 

 

 

「店主、その女性と連絡がつきますか」

「は」

 

 

(どこをどうやったらそんな話に行き着くんだ!!?)

 

 

「話が聞きたいんです。何とか連絡つけられませんか」

 

 

 

驚きが顔に出ていたのだろう、ボンゴレの十代目ボスはとてもすまなさそうな顔をした。

 

―――ただ、其の瞳は真剣そのもの。抗うことを許さない気迫に満ちている。

 

 

(虎の子、ねぇ。・・・・・ま、言い得て妙かもしれん)

 

 

 

「・・・・・・・わかりました、連絡、つけましょう。今すぐ呼ぶのは無理ですが構いませんか」

「十分です。場所は指定させていただいても?」

「ええと、多分大丈夫だとは思うんですが・・・そればかりは聞いてみないと何とも言えません」

「その方は堅気ですか?」

「・・・・・・情報屋っていうのは堅気に入るんですかね?」

「情報屋?」

 

「はい。・・・・・ああ確か、後から来た二人組が中国のマフィアだとか何とか言ってましたよ」

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

 

「そういう情報も扱ってるみたいなんで、ちょっと堅気とは言えないですか」

 

 

 

三人はまた何かを話し合い始め、マスターは一人己の甘さを知った。

 

(とんでもねえ連中だ。・・・・・・なあ、?)

 

 

 

「店主、ご協力感謝します。コレはすぐに片付けさせますので、それと後ほどお礼を・・・迷惑料も兼ねて」

 

 

 

それには口止め料も入っていることだろう。

この青年は、多分一般人に対して、もしくは味方に対しては酷く懐が深い。

 

しかしそうでなければ・・・・・・?

 

 

 

「・・・・・・・・お役に立てて幸いです。どうかお気を付けて」

「ありがとう。それでは」

 

 

 

ボンゴレの連中を見送って、店の中に戻り、マスターは独りカウンターの前に座る。

 

 

 

「・・・・・重鎮の死体を“コレ”呼ばわりか・・・・・・おぉ怖」

 

 

 

それから暫く自棄酒を飲んでいると処置人が来て、死体と血の痕を綺麗に片付けた後、お金と電話番号を置いていった。

 

に連絡がつき次第、その番号に掛けろというのだ。

 

 

 

「結局こうなるわけ、か。俺の努力は無駄っつーか無意味っつーか?」

 

 

 

(ボンゴレの新しいボスが分かっただけでいいとするか。・・・・・・絶対逆らわん方がいいな)

 

真理であった。

 

 

 

「あ、か?悪いんだが――」

 

 

 

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