情報屋としての仕事は、最後までやり通す。
―――これは、私の仕切りだ。
灰色の夢
「彼が主犯だと思われますが・・・・一連の事件全てが単独犯だと言うには無理があります」
「奴一人を捕まえても意味が無い、ってことか?」
「そうですね」
報告会、再び。
半ば無理矢理ディーノを押し止めて私は言葉を続けた。
・・・こんな所で終わってたまるか。
「彼の他に必ず共犯がいるでしょう。それも相当数。・・・・一々調べていくにはかなりの時間を消費しますので・・・・・」
そこでじっくりと間を取る。
そしてディーノに向かって私は、心底申し訳なさそうに装って笑った。
「吐いていただきます」
「・・・・そうか。・・・・・・・っておい!!」
何とも下手糞なノリ突っ込みだ。ノリすらしない恭弥よりかはマシかもしれないが。
「待て、ちょっと待て。兎に角待て。いいかお前の情報が確かなのは俺がよぉく知ってる。だがな、パンツェッタは未だ被疑者だろ?
そういう乱暴な真似は――」
「ディーノさん」
私は半眼になって彼を見据えた。
思ったより低く出た声にディーノが引くのが分かる。
「な、何だ?」
「ちょっと語弊があるようなんですけど。私のことそんな風に思ってらっしゃったんですか?」
「そ、それは・・・どういう?」
「つまり私が――さっさと仕事を終わらせたい為に確固たる証拠も無く疑わしいという理由だけで誰かさんを犯人に仕立て上げた挙句
もしかしたら知っているかもしれないという自分勝手な思い込みによってその誰かさんを酷い拷問にかけようとする―――ような、人間、だと?」
「へ!?い、いやその、そこまでは」
「じゃあ何処までですか」
「・・・・・あ・・その、えっとだな・・・」
「それは侮辱と受け取りますよ?私はしがない情報屋ですけど・・・しがないなりに、プライドはあります」
「・・・・・・悪かった。謝る。今ちょっと・・・焦ってんだ」
「構いませんけど・・・さっきから謝ってばかりですね、ディーノさん。ま、私も言葉が足りませんでした」
態とそういった言葉を選んだ節があるので、強くは言えない。
それに、ある意味彼にとっては拷問かもしれないし。
「私に任せてください。決して傷をつけないと約束しますから」
「――さん、ちょっと良いかな」
「何でしょう?ボス」
いきなり割り込んできたのはこの部屋の主だ。少し考えるような顔をしている。
「いきなりで悪いけど・・・そんな事、本当に出来るの?」
「吐いていただく事ですか?」
「そう、それ。その主犯は、今までずっとボロを出さなかった人間だよ?頭も良いだろうし、並大抵の精神力じゃない。
傷つけもせずにどうやって吐かせるの?」
「脅します」
「結局脅すんじゃねーか!」
「でも傷つけないですよ?」
「・・・・うぐっ・・・」
「君に、出来るの?」
「はい」
「!」
即答する。
ボスの目を見て、はっきりと。
「手荒な事は致しません。ですが、きっと自分から吐いていただけると信じています」
「・・・その自信は・・・・何処から来るのかな?」
「事実ですから。」
「・・・・」
にこりと笑ってそう言うと、その部屋は微妙に生温い空気に包まれた。
呆れる者、信じない者。馬鹿にする者、疑う者。様々だ。
だが誰も声に出して否定しなかった。ならばそれで十分だ。
「ディーノさん」
「・・・・・何だ?」
「決して傷つけないと誓いますから――被疑者に刃物を向けることを許していただけますか?」
「・・・・・・・・・・・お前の仕事だ、好きにしろよ」
「・・・了解しました」
あの夜の唯一の部外者にして目撃者でもあるパンツェッタ。
一瞬の邂逅、それなのにこうして再び相対することになるとは皮肉なものである。
・・・結局、誰しも己の罪からは決して逃れられないということなのだろうか。