それを知っても、なお引き入れるつもりがあるのなら、私は。
灰色の夢
「以上で、依頼終了ということになりますが、構いませんか?」
「あぁ。期待以上だった」
「それはどうも」
部屋に入ってきたディーノとロマーリオ。
その後ろから、面白そうだと言って付いてきたボンゴレの面々。
・・・よっぽど暇らしい。
「それではどうぞ、ディーノさん」
私は真っ白な部屋の壁際に移動し、ディーノに後を任せた。
青褪めた男は拳銃ぐらいなら所持しているかもしれないが、下手な動きをすれば即座にリボーンが動くだろう。
これ見よがしに手の平サイズの銃を回しているし。
「・・・・・ボス・・・・」
「・・・・パンツェッタ・・・・・・お前・・・・」
見つめあう二人。
正に修羅場だ。
男は懇願するように自らのボスを見やるが、対するディーノの言葉は氷のように冷たい。
「あ・・・ボ、ボス、私は・・・・!」
「マリオ・パンツェッタ。お前は俺達キャバッローネの名誉を傷つけた・・・・・・その意味が分かるな」
「・・・・・っ・・・」
「お前一人の命で到底償えるものじゃない」
パンツェッタ家は根絶やしにされるのだろう。マフィアでなかったとしても――その血を受け継ぐ者なら全て。
「それはッ」
「申し開きがあるなら後にしろ。あんたには吐いてもらう事が山ほどあるからな」
「ロマーリオそれは俺の台詞だって」
「すまんボス」
何故かロマーリオが最後を締め、それを聞いた男はがくりと膝を落とした。
その身体は小刻みに震えている。
・・・・・だが、同情の余地など、無い。掟は掟だ。破れば制裁が待っている。
「いずれはこうなるの、貴方ならわかってたでしょうに」
「っ貴様・・・!!」
「まぁ怖い」
今更喚いた所で所詮負け犬の遠吠え。
私にとっては痛くも痒くもないが、いい加減鬱陶しいと思っていたら。
「・・・・・」
「え?」
いきなり、名を呼ばれた。
勿論そう呼ぶのは今の所恭弥しか居ないわけだが。
というよりこんな雰囲気の中で何を言うつもりなのだろう。
「どうかした?恭弥」
「君、これと知り合い?」
・・・・はいはい来ましたか。
この軟弱な男に関しては『これ』呼ばわりを訂正する気にもならない。
「えぇと・・・・知り合い、というより・・・・顔見知り?」
「・・・・何それ」
「昔、会ったことがあ」
「貴様さえいなければ全ては上手くいってたんだ!!」
そんなことはない、と即座に反論したかった。
私が責任を取らなければならないのは、フィオリスタ・ファミリーの連中に関してのみ。
代々やってきたことだからと掟を自ら破り、そして自滅した人間など知らない。
「・・・じゃあ、あの時殺してた方が良かった?」
「・・・・・何、を・・・馬鹿な・・」
「貴方は部外者だったから殺さなかったけど・・・今にして思えば殺しておくべきだったかしら」
そうすれば今回のような中国マフィアと関わる大事件にはならなかったかもしれないし。
何より。
「・・楽に死ねたでしょう?」
「ぐ・・・」
「それでも、家が断絶されることに変わりはないでしょうけど」
「・・・この化け物め・・・!」
「お褒めに預かり光栄の至り」
と、このようにふざけた応酬を繰り返していると・・・恭弥がちょっと怒った。
「二人だけで喋ってないで説明しなよ」
「・・・・・・・」
わお。滅茶苦茶刺々しい声だ。
「聞いてるの、?」
「あ―うん。それはね話すと長くなるんだけど・・・」
「惚けた事を・・・!こいつは『フィオリスタ・ファミリー』を一夜で潰した張本人だぞ!!」
その言葉は。
たっぷり10秒経ってから、ようやく、皆の頭に浸透した。
・・・・部屋の空気が凍ったのは、言うまでも無い。