償うつもりは無いけれど。
全て背負うと決めたけれど。
――肩の荷が下りたように感じたのは、事実だった。
灰色の夢
肌が痛くなるような沈黙。
私の所為だとはいえ、気分が良いものではない。
・・・それを破ったのは、ディーノだった。
「・・・ロマーリオ」
「何だ?ボス」
「こいつを連れて例の場所へ戻れ。此処で見聞きした事は絶対に口にするなよ」
「了解」
確かに、広められては困る話だが・・・気を使ってくれたのだろうか。
私は言うべき言葉も見つけられず、ロマーリオがパンツェッタを引き摺っていくのを、ただ、見つめて。
ふっと、すれ違いざまロマーリオが私を見た。何だろうと見返すと―――
ウインクされた。
し返す勇気はなかった。(
度胸とも言う )
「・・・・、さん・・・・」
部屋の中を見つめたままの私に、ハルが気遣わしげに声を掛ける。
私はゆっくりと振り返り、少し泣きそうな彼女に笑いかけた後、吐息と共に言葉を紡ぐ。
「ごめん、恭弥」
「・・・何が?」
「報告する前にばれちゃった」
「・・・・・・・・・」
これでまた約束を破った事になってしまうが、今回ばかりは不可抗力だと言わせてもらおう。
あの男が現れた時点で他の事など吹っ飛んでしまったのだから。
「フィオリスタって、あの『赤き惨劇の夜』で有名なやつか?」
「一夜で潰したんならそうだろ。まさかその名前をこんなところで聞くとはな」
「それって、犯人がまだ分かってない迷宮入りの事件、だよね?」
「俺は本部ビルが真っ赤な血で染め上げられたって聞いてます」
「そーそー。・・・どっかのスプラッタ映画並みだったってよ」
「あれ、猟奇的犯罪ってことになってませんでしたか?愉快犯じゃないかって――」
扉が閉まった途端、各々が一気に話し出す。私はその内容に思わずげんなりした。
フィオリスタ・ファミリーが一夜で壊滅したことは事実だが、この十年の間に大分誇張されている気がする。
ひとり死ぬごとにカウントしていたものの、その中には直接手を出さずに死んだものもいる。
同士討ちもあった。次々起こる殺人に錯乱した上自殺した人間も。
そして何より、備え付けられた高度なセキュリティそのものが彼らの多くの命を奪ったのだ。
ナイフひとつで全てを殺して回ったわけではない。・・・切り裂きジャックのように思われていたのなら、心外である。
会話に加わることも出来ず複雑な気持ちで突っ立っていると、静かな声が降ってきた。
「・・・・君がやったの?」
「恭弥・・・」
目線を合わせて、確信する。
この幼馴染は私を軽蔑したりしていない。彼にとってはただの事実確認なんだろう。
だから私も気楽に答えられる。
「ま、否定する材料は無いわね」
最も―――
「肯定しなければならない証拠も無いけど」
「結構頭に来る物言いだね」
「あ、わかる?」
「・・・・・咬み殺すよ」
徐にトンファーを構える恭弥。たった数日振りのその姿に何だか懐かしささえ感じる。
私は無意識にも、放たれた殺気に反応し咄嗟にナイフを持ち直した。
そう、あのナイフを。
「・・・・あ」
「何」
「あはは、言い逃れ出来ないわけじゃないけどちょっとマズイ証拠があったわ」
「・・・・・・・・?」
少し首を傾げた恭弥に、右手のナイフをひらひらと示す。
「これ、凶器。」
「・・・ワオ、最悪」
「ん。でも付着した血痕大分古いからな・・・・これで個人を特定できるか分からないし?かなり殺してるから混じりまくってると思う」
「だろうね。・・・それ、ちょっと見せて」
「はいはい」
私は恭弥に近づいてナイフを渡す。
彼はしげしげとそれを見てさも感心したように言った。
「随分ボロボロだね」
「短い間に酷使しすぎたから。『フィオリスタ・ファミリー』の誰かの持ち物じゃない?そこら辺にあったの勝手に使ったし」
「ふぅん・・・殺したのから銃とか取らなかったわけ?」
「・・・・・・まぁ、ね。だって使い方知らなかったんだもの」
「知らない?」
「激鉄の起こし方、とか。安全装置の外し方とか。・・・・それに発砲したら五月蝿いし。それ以前に当たらないし」
銃は余りにも危険だった。ナイフの方がまだマシだった。弾切れを気にしなくても済む。
また―――出来るだけ見つからずに移動することも、重要だったから。
「それに・・・私が人を殺したの、その時が初めてだったんだもの。全然余裕なんか無かったわ」
「はじ」 「「初めて!?」」
「・・・・・五月蝿い・・・・」
妙に静かだと思っていたら、ディーノとボンゴレ一行は私達の会話を聞いていたらしい。
恭弥の台詞を横取りしたので彼に睨まれている。
「・・・あの、さん、初めてって・・・・」
「正真正銘、あの夜が初めてよ、ハル。初・体・験」
「はつ・・・」
「・・・・・・・」
「はいすみません遊びました」
その場にいた全員が、一気に脱力した。
・・・・私の所為なんですか。そうですか。