文句があるなら殺しに来ればいい。
私に命がある限り、相手になってあげるから。
灰色の夢
「殺しが初めてでファミリー壊滅させただぁ!?ありえねー」
「そう思っていただいた方が好都合なんですけどね、獄寺さん」
「・・・・・マジかよ・・・・・・」
獄寺は奇妙なものを見るような目で此方を見やる。私の穏やかではない発言に警戒心を強めているようだった。
彼だけでなく、一見穏やかそうな山本でさえそうなのだ。
・・・・こういう反応が普通なはずだろうに。
ボスが期待に満ちた目で私を見ているのに気付いたときは、思わず身構えてしまいました。ええもう。
「一体どういう理由でそんな事を?あの事件の頃なんてさん、まだ子供だったんじゃ?」
「・・・・・・・・・・・」
うわ・・・何で嬉々として質問してくるかな。
それにその爽やか過ぎる笑顔。何なんだ。
私は何となく逃げ出したいような気持ちを抱えながら、仕方なく答えた。
「単なる私怨ですよ」
「私怨?」
間を置かずに放たれた言葉。
どうも、可笑しい。
「・・・・如何してそんなに喰い付いて来るんですか?」
「知りたいから――じゃ、駄目?」
だから何で。
そう言い掛けた私を遮って、ディーノが声を上げた。
「待て、」
「何です?」
「お前、私怨でフィオリスタの連中を全員殺したのか」
「いけませんか」
それは、問い掛けですらない。
「報復なんてこの世界じゃ珍しくもないと思いますけど」
「・・・・・・・報復?」
「マフィア同士が潰し合うのと同じ事ですよ。私の場合、片方が個人だっただけで別に騒ぎ立てる程のことでもない」
「・・・」
「人に何かをすれば、し返される事を考えなければならない。人を殺せば自らも殺されるという可能性を考慮しなければならない」
私は嗤う。
彼らを。
そして――愚かな自分を。
「彼らはそれが出来なかった。・・・いえ、するつもりも無かったのでしょう」
「」
恭弥の声。
含まれた制止の響きを無視して、私は言葉を続ける。
「私にしてみれば、当然の報いです。この事を第三者に責められる謂れはありません」
「それが正しい事だって言うのか!」
「何にとって?」
「っ・・・・・」
滲み出る殺気は、止めようが無かった。
薄っすらと笑みを浮かべた私。ボンゴレの連中はやや遠巻きに私達のやり取りを見守っている。
「道義的に、ですか?それは勿論間違っています。女子供問わず皆殺しですからね」
そこまで一息で言い切って、私はディーノを真正面から見据えた。
「でもそれは、マフィアに言われることじゃない」
「・・・・・・・・・」
ディーノは、怒らなかった。
ただ少し瞳を揺らして視線を落としただけだった。
哀愁漂うその姿。叱られた子犬のような幻が背後に見えたりして。
他の人間の視線が微妙に責めるような色味を帯びたのは気のせいだろうか・・・・
重い。
空気が重い。
・・・・・・・っあぁもう、悪うございましたね!!
「―――別に、生き残るつもりなんか無かったんです」
私は少々不貞腐れたように口を開く。
多少言い訳のような物言いだが、とにかくこの重い空気を何とかしたかった。
決して話題を逸らしたとかそんな事はないです、はい。
「・・・・・?」
「だって、人殺すの初めてでしたし。相手、多かったですし。・・・・全員殺すっていう志半ばで倒れると思ってました」
死ぬつもりだった、というのは正しくない。
先が無いと思っていただけで。
「でも――成功しちゃったんですそれが。全員、殺せちゃったんですよ、私でも。一晩かければ」
成金があつらえた高度なセキュリティ。まず、出入り口を完全に封鎖できた。
そしてその中に組み込まれていた、侵入者対策プログラム。わかりやすく言い換えるなら、罠。
―――それが結果的に私を救うことになるとは。
「、さん・・・・」
「私・・・生き残っちゃいまして。この後どうするか、なんて考えてる間に・・・あの人が、来たんです」
「・・・・・・パンツェッタ、か」
「ええ。大きなスーツケースを持ってました。中の惨状に驚いて怯えている所を脅して消えて頂いたんですが――荷物、置いていかれまして。
中から白い粉の入った袋が飛び出していたのをこの間思い出したので、それでターゲットに」
「・・・・すっげー偶然だな」
「運も実力のうちですから」
「・・・・すっげー自信だな」
リボーンがニヤリと笑って私をからかう。
・・・・ほっといてください。