差し伸べられた手は、あまりにも。

 

 

灰色の夢

 

 

 

幾分功を奏したのか、部屋の空気が和んだ。

私は彼らに背を向けると少し部屋の奥へと移動する。

 

窓の無い白い部屋は、とても息苦しい。

 

 

 

 

「やっぱり麻薬絡みの仕事は碌なものが無いですね・・・・」

 

 

 

引き受けるべきじゃありませんでした、と私は呟く。

覚悟の上の結果だから然程落ち込みはしていないけれど。

 

 

 

「っでも、さんがしてくれなきゃ解決出来なかったと思います!」

「ハル・・・」

「・・・・・そりゃ、いけない事、だったかもしれませんけど・・・・」

「いいのよそれは。悪事は悪事だしね」

 

 

 

悪事ですむのか、と突っ込まれそうだ。

・・・・裏社会で歴史的事件を作ってしまったのだから。

 

私は振り向いて悪戯っぽく笑う。

 

 

 

「おまけに償おうともしないんだから、極悪人よ?」

「・・・・・・・う・・・・・・・・・・」

 

 

 

完全に償うつもりがない私。それを否というのなら、命を賭して戦ってやる。

 

例えそれが誰であったとしても。

 

 

 

「・・・・というわけで、ディーノさん」

「、ん?」

「報酬の件なんですけど、何も支払って頂かなくて結構ですから―――だから」

 

 

お願いだから。

 

 

「今日知ったことは、その胸ひとつに仕舞っていて下さい。・・・・でないと、私はキャバッローネを敵に回さなければならなくなります」

「・・・・そりゃ物騒だな」

「勝てるとは思いませんけどね。ただでは負けませんよ?」

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

ディーノはどこか諦めたようにふぅ、と大きなため息を吐いた。

わざとらしいそれに眉根を寄せ、私は彼を見返した。

 

 

 

「何ですその悟りきったような顔は」

「やかましい。・・・・・・・報酬は支払う。契約は契約だからな。で、それにその要求も含めてやるよ」

「・・・・・・・・・・・いいんですか?」

「だって俺、フィオリスタに興味ねーし。その事件自体キャバッローネに関わる事じゃねーし」

「・・・・はぁ」

「お前はパンツェッタを逃がした。殺す事もできた筈だろ?―――キャバッローネに被害が無い以上、俺が動く理由は無いさ」

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

「それにお前敵に回すのはちょっと遠慮する」

 

 

 

「それが本音ですか」

「うるせーよ」

 

 

 

 

 

いつの間にかやりとりも普段の調子に戻っていた。

どうやら、それでいいらしい。ボンゴレの面々も異議を唱えようとはしなかった。

 

麻薬の件に関しては一応ピリオドを打ち。

私の過去の悪事に関しては再び闇に葬り去られる事となった。

 

 

 

これにて一件落着。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・では、なく。

 

 

 

 

 

 

 

「ね、さん」

「はい?・・・・っ!・・・」

 

 

 

 

声の掛かった方へ私は身体ごと向き直った。

向き直った瞬間に飛んできた何か。それを反射的に捕まえる。

・・・・何だか、もぞもぞと動いているような気がするのだが・・・・

 

手の平を開くと、そこには。

 

 

平均よりも大きな、艶々と黒光りするアレが居た。

 

 

 

 

 

(・・・・・・・っ、ゴ!?)

 

 

 

 

そう。

 

世界中の大半の女性が嫌っているであろう、ゴのつくアレである。

 

 

 

 

 

「ッな」  んでこんなものが!?

さん、流石だね。・・・・物凄い反射神経だ・・・・思った通り」

 

 

 

咄嗟に投げ捨てることもできず其れと見詰め合っていると、私に呼び掛けた張本人が笑いを含んだ声で言った。

 

確かに昆虫が自力で出せるはずも無いような物凄いスピードで飛んできたが・・・・

 

 

 

 

「貴方が投げたんですか!?」

「ちょっとね。他に良いのが無くて」

「意味が分かりません」

「だって、銃とかナイフとかだったら危ないだろう?もし怪我でもさせたら雲雀さんに殺されるよ」

「これが当たるのもある意味危ないです」

 

 

 

 

あれだけのスピードで投げられたのだ。手の平で受けて衝撃を緩和したからいいものの、顔に直撃だと体液がかかってしまうだろう。

ゴキブリの表面の油は美容に良いかもしれないという話は聞くけれど、それとこれとは話が違うのだ。

 

私はそれを部屋の隅に逃がし、消毒用のウェットティッシュで手を拭きつつ、問いかける。

 

 

 

「一体どういうつもりなんですか?」

「・・・さん、君の情報屋としての実力は本当に素晴らしいものがある。気配を消すのも上手いし、今みたいに反射神経も抜群だ」

「・・・・・・・それは、どうも?」

 

 

ありがとうございますと言ってもいいのだろうか。

 

 

「殺気もプロ並だったしね。戦闘能力もきっと申し分ない」

 

「・・・・・あの、ボス?まさかとは思うんですが・・・・」

 

 

 

もしかして。

 

この話の流れは・・・・

 

 

 

「ご名答。―――じゃ、さん。改めて言うけど・・・・」

 

 

 

まさか。

 

 

 

「ボンゴレ・ファミリーに入って欲しい。君の力を借りたいんだ」

 

 

 

しかも今回は疑問文じゃない、みたい、です。

 

 

 

 

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