気付いたら、ほら。
四方八方塞がれて。私はもう、逃げられない。
灰色の夢
放たれた言葉に私は一瞬反応が遅れた。
前とは違い、ボスが心底本気でそう言っているのが分かってしまったから。
最早、ご冗談を・・・と場を濁す事も出来ない。
「・・・・・お言葉ですけど、私の立場を理解して頂けているのでしょうか?」
「フィオリスタみたいな弱小マフィアひとつ潰したぐらいでどうこう言うって?・・・あんな同盟にすら入れる価値も無いようなファミリー」
うわ、辛辣。
「俺は直接知らないけど、先代から多少聞いてはいるよ。主に麻薬の取引でかなり稼いでたって話、とか」
「・・・・・・・・・・・・・」
「あまり良い噂もなかったみたいだね。・・・・さんがどういう私怨でそんな事をしたのか・・・俺にはわからない。別に無理矢理知ろうとは思わない」
ボンゴレには関係のないことだから、とボスは言う。
フィオリスタが潰されようが潰されまいがどうでもいいのだ、と。
「マフィア達だってそう。犯人を捜せ、とか犯人が分かったらどうする、なんてこと誰も思っちゃいない――惨劇の凄まじさに恐怖するものはいても、
彼らに同情するものはいなかった」
「恐怖故に排除を求める人間は幾らでも居ます」
「・・・まぁ、そうだけど。でもさんは捕まるようなへまなんかしないよね?」
「当然です」
捕まりはしない。
万が一捕まったとしても、証拠なんか出ない。出させない。
私が犯人だなんて誰にも思わせないことだってできる。絶対に。
・・・最も、この人達が権力にまかせて私を押しつぶさない限り、だが。
「あんなちっぽけなファミリーに囚われる必要はないよ」
「・・・・・・・・・・では、それだけではないと言ったらどうしますか」
「それはどういう意味?」
「フィオリスタみたいに派手ではありませんけど、影で多少マフィアにちょっかいを出した事はあります―――そしてそれは
ボンゴレやその同盟ファミリーだったという事も、可能性としてありますが?」
「・・・・・・・・・・。可能性としてはゼロじゃないかな」
「・・・・何故、ですか?」
「だって少しでもそんな可能性があるなら―――君は今此処には居ない」
「!」
「否、そもそもボンゴレの本部に足を踏み入れたりはしないだろうね。さんは頭がいいし、それ位計算して行動していると俺は思うよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
見抜かれた。こうもあっさりと。
何だかそれが新鮮で、私は思わず笑みを浮かべる。
皮肉な色の無い、純粋な笑みを。
「・・・・あら、ばれちゃいましたか」
「やっぱりそうなんだ。だったらもう、迷う事はないと思うよ?」
「どうしてそんなに私に拘るんです?・・・恭弥の幼馴染だから、ですか?」
「それは勿論ぶっちぎり第一位だけどね」
一位なのか。ぶっちぎってるのか。
「情報屋としてのキャリアも、その情報自体も、本当に魅力なんだけど」
「・・・どうも」
「信頼に足る人物だっていうのもはっきりとわかったし」
「・・・・・はぁ」
「――――それに」
一瞬で、声色が変わった。
背筋が凍るような冷たい声で。
深い深い哀しみを湛えた瞳で。
・・・・・・ここではないどこかを見ながら、『ボンゴレ・ファミリー』のボスは言う。
「君も知っていると思うけど、今ボンゴレ内は騒がしい。東洋出身のボスに反発する者が多いんだ」
「えぇ、多少は知っていますけど、それが・・・?」
「うん。頭の固い死に掛けジジィ共はおいおい黙らせるとして―――問題は一部の過激派なんだ」
「・・・・別の誰かをボスにしようと画策してるんですよね」
「その通り。東洋の血が混ざるのはお嫌いらしい・・・・まぁぶっちゃけ俺狙われてるんだけど」
「・・・・・・・・・」
「俺は今、一人でも多く、信頼できる仲間が欲しい。一緒に戦ってくれる仲間を探してる」
「・・・・・・・はい」
「そしてその仲間は――――――簡単に死んでもらっては困るんだ」
幾分抑えた声であったものの、その声はほんの微かに震えていたような気が、した。
周りの連中の顔にも、少し翳が過ぎった。
・・・・・もしかしたらこの人は、誰かを失ったのだろうか。
「その点、君は強い。多分そこらのファミリー要員よりもずっと」
「・・・私は別に、強いわけじゃありません。ただ負けることが嫌なだけです」
「生きる事が出来るなら、それでいい。――――さん、もう一度訊いても良い?」
今更、問われなくても。
「ボンゴレ・ファミリーに、入ってくれないかな」
私の答えは、ずっと前から決まっている。