新生活の第一歩で。

 

・・・・足を掬われました。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

「と、いうわけで!この度三浦ハルは情報部情報処理部門第九班班長に就任しました!!」

「・・・・・いやうん。一応先刻聞いたんだけどね?」

 

 

 

私は酷く疲れた気分で、自信満々に胸を張る己の上司を見やった。

 

 

 

「はい!さんはその第一部下ですよ!!」

「・・・・・第一部下、ね。・・・部下が一人しか居なくてもそう言うのかしら」

「え、でもこの他に二、三人程入る予定だそうですけど」

「予定、ねぇ・・・。予定は未定ってよく言うわよ」

「・・・・・う・・・・」

 

 

 

あの事件が解決してから丁度数週間が経過し、私はボンゴレ・ファミリーの一員として正式に認められた。

出勤したその初日に本部4階隅の部屋に押し込まれ、今ハルと二人きりである。

宛がわれた部屋はこれから毎日使い続けるのであろう私達の拠点だ。広くも狭くも感じない。

 

 

そこで現在の私達の立場と、仕事内容を教えてくれるはずだったのだが・・・・

 

 

 

「ボンゴレ内の定義によれば、班は最低でも5名以上で構成されるはずなんでしょう?」

「あ、それは仕方ないですよ。ボスがハルの為に新しく作ってくれた班なんですから」

 

・・・・はい?

 

 

「・・・・・・・・・作ったぁ・・・?」

「はい。元々情報処理部門には、八つの班しかなかったんです。ちなみにハルは第五班でしたけど」

 

 

 

物凄く嬉しそうに笑ってハルは言う。何も分かっている様子はない。

こんな短期間で軽々しく新しい班を作ったってことは、その班自体には然したる権力など与えられてはいないってことだろうに。

 

・・・・・無意味じゃないか?それ。名前だけって・・・・。

 

 

 

「譲歩の仕方がせせこましいこと・・・・」

「はひ、何ですか?」

「ううん、何でもない何でもない」

 

 

 

貴女の尊敬しているボスは顔に似合わずケチですね、なんて言うつもりは全くない。

彼女が何の為にのし上がろうとしているのか、何となく分かるつもりだ。貶すのは控えておこう。

 

私はパソコンと机と椅子と空っぽの棚しかない味気ない部屋をぐるりと見渡す。

 

 

・・・・可もなく不可もなく、か。

 

 

 

「ま、第一歩としては上々、なのかもしれないわね」

「初めが肝心ですからね!」

 

 

 

当面の目標は、のし上がること。

その為にはボスさえ文句が言えないような実力を周りに示していかなければならない。

 

あまりだらだらすることも出来ないが、早急すぎれば失敗してしまう。

 

 

何より・・・

 

 

 

「情報処理部門、って何?まさかずっとこの部屋に篭りっ放しの仕事じゃないでしょうね」

「・・・・えぇと、そのまさかなんですけど。駄目でしたか?」

「駄目も何も・・・」

 

 

 

私は一つため息を吐いて、彼女に語りかけた。

 

 

 

「いい?私達の目的はひとつ。のし上がること―――少なくとも貴女が幹部になる位まで」

「・・・・・はい。そうですね」

 

「なのにずっと部屋に篭ってパソコンに向き合ってるだけでそれが出来ると思う?」

 

「はうー・・・・思いません・・・」

「一緒に日本から来た彼らと、貴女との違いは何?・・・・性別なんて言ったら怒るわよ」

「っう!」

 

 

 

言うつもりだったらしい。

・・・あのボスの事だ、それも勿論原因のひとつだろうとは思うが。

 

今言いたいのは、そんな事じゃない。

 

 

 

「・・・・・・・・覚悟、でしょうか」

「何の?」

「・・・え」

「覚悟。一言で言えばそうでしょうね。でも覚悟といっても・・・・色々あるわ」

 

 

 

殺す覚悟。失う覚悟。奪う覚悟。背負う覚悟。・・・・堕ちる覚悟。

彼女がしなければならない覚悟は幾らでも転がっているけれど。

 

 

 

「・・・戦う覚悟とかじゃないんですか?」

「それは『人を殺す』覚悟、という意味?だったら・・・・違うと思うけど」

「でも!ツナさんたちは皆・・・っ」

「皆と同じにはなれなかったから、貴女はここに居るんでしょう」

「それは・・・・」

 

 

ハル俯いてぎゅっと手を握り締めた。どう足掻こうと答えは自分で見つけるしかない。

 

 

「じゃ、これは宿題という事で」

「はいー!?」

「自分で気付かなければ意味がないしね。諸々の作戦はそれが分かったら考えるということで」

「・・・・・・うぅ、頑張ります・・・」

「その意気その意気」

 

 

 

それが分かっても、覚悟できるかどうかはわからないけれど、ね。

 

 

 

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