隠したつもりはない。

・・・だけど、あの事は言わない。

 

今言っても、きっと理解できないと思うから。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

あれから本部に帰った後、すわ説教をば――と意気込んでいた私はハル共々ボスからの呼び出しを喰らってしまった。

それを聞いてあからさまにホッとしたハルを一度軽くファイルで叩いてから、建物の最上階へと向かう。

 

・・・さて、どういう用向きだろうか。

連日の外出がばれて注意を受けるとか?・・・・いやいや、ボスがそこまで口を出すのはプライバシーの侵害になるな。

書類はちゃんと完璧にしてあるのだから文句を言われる事はない。

 

 

 

 

「・・・ハル、何か知らない?」

「え、・・・いえ、事前に連絡もありませんでしたし・・・何か緊急の事なんでしょうか・・・?」

「そういう切羽詰った感じは見受けられなかったけど・・・」

 

 

 

 

何の説明も無いまま行き成り呼び付けられ、不審に思わずには居られなかった。

・・・・まあ、彼女を危険な目に遭わせかけたというちょっと後ろ暗い部分もあった所為だが・・・・

 

しかしその疑問は、ボスの居る最上階の部屋に入った瞬間に解けた。

ボスの他に、人事担当の山本、そして全く見知らぬ男女合わせて三名がそこに居たからである。

 

 

(・・・・新手か・・・・)

 

 

そう。私が危惧していた新たにハルの部下となる連中だ。

 

 

 

 

 

「ハル、さん。ごめんね仕事中に呼び出して」

「いえっ大丈夫です!」

「支障はありません」

 

 

 

だって仕事はもう終わってますから。

口には出さず、心の中で呟いた。

 

 

 

「今日呼んだのはね、ちょっと紹介したい人達が居るんだ。・・・・山本、よろしく」

「おう、任せとけ。・・・紹介するぜ。この三人は、明日付けでボンゴレ情報部配属になった新人だ」

 

 

初めまして、よろしくお願いします。と、順々にひとりずつ挨拶するのを見届けて。

 

 

「はい!こちらこそ初めましてです!」

「・・・こんにちは」

 

 

 

明るく返事をするハルとは対称的に、無難に挨拶を返しながら私は彼らを観察した。

じっくり見るまでも無い。声の調子や、その立ち振る舞いから分かってしまう。

 

 

―――こいつら絶対新人じゃない。

 

 

ボスが選んだ見張り――もとい、護衛だろうか。どの人間もそこそこ扱えるようだし。

 

 

 

「あの、ボス。もしかしてこの人達は・・・・」

「うんその通りだよ、ハル。彼らは第九班所属―――つまり君の部下になるんだ。これから仲良くやって欲しい」

「・・・・・はい!有難うございます!!」

「今まで少ない人数で大変だったろ?下で色々話をして。自己紹介とか、これからの勤務方針とかね」

「分かりました!!・・・じゃあ、皆さん、ついて来て下さい!」

 

 

 

純粋に部下が出来たのが嬉しいのだろう、喜びで顔を輝かせるハル。それを見て微笑ましげに笑うボス。

 

ハル、騙されてる騙されてる!ただの人数合わせじゃないってば!

 

私は表向き平静を保って、しかし多少穏やかではない心持ちで軽やかに出て行くハル&似非新人共を見送った。

不自然に部屋に残った私に、ボスから声が掛かる。

 

 

 

「えぇと、さん?」

「どうかしたか?」

「あ、いえ。大した事ではないんですが」

 

 

 

黙って去って、気付いていない振りをすることも出来たけれど。

 

・・・・・・何だか癪に障るし。

 

 

 

「あの方々のどの辺りが新人なのか、一度詳しく聞いてみたいなぁ、なんて思いまして」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「勿論、山本さんが選んだんですから、滅多なことは無いと信じていますけど・・・私も自分の身が大切ですので」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「いえまあ新人であろうと無かろうとどうでもいいんですけどね、使えれば別に」

「・・・・・あー、いや、そのな」

さん・・・」

 

「あ、そうですよねあの方々も実力はあるようですし、折角ですからこの際沢山扱き使わせていただきますね!」

 

 

 

口を開きかけた二人を遮るように私は畳み掛ける。

そして丁度いいことに、私が来ないことに気付いたハルが扉の向こうから声を掛けてくれた。

 

 

 

さん、何してるんですか――?早く来てください!置いていきますよ?」

「ごめん、すぐ行く!・・・・それでは、失礼しますね」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

微妙な顔のまま固まるボスと側近。ざまあみろと思わないでもなかったが、無論口には出さない。

 

フォローするつもりがなかった私は、無情にも振り返ることなく、ハルの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ほら、やっぱりばれた」

「一瞬で見抜かれるとはな・・・・すっげー」

「彼女にとっては想定内だったって事だよね。・・・・ホント、敵になる前に引き入れられて良かったよ」

「敵ぃ?」

「もしもの話だって。・・・あ、でもこっちには雲雀さんが居るから大丈夫なのかな」

「・・・・・あー・・・。かもなー・・・」

 

 

 

 

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