ボスに言った時には、ただの嫌味であり。
別に本気で言っていたわけではなかったのだけれど、ね。
灰色の夢
取り敢えずハルとの事はさて置き。
・・・・当面の問題は、この人達を、どう扱うかだ。
「んじゃ、まずはと。・・・俺はカルロ。一応独身27歳。現在彼女募集中!」
「アレッシア・サリエリでっす!宜しくお願いしまーす」
「えぇと、僕はジュリオっていいます、はい。これから・・・お世話になります」
現在第九班に割り当てられている部屋にて、ボスに言われたとおりに自己紹介大会が開かれている。
私は新入りもどきに紅茶を振舞いながら、その会話を聞いていた。
「質問があったら、何でも言ってくれよな。明日からあんたの部下になるわけだし」
そう言って笑うカルロと名乗った男。
―――何故初対面でしかも上司に向かってタメ口を叩くのか。
「・・・そうですね・・・・あ、ちょっと待って下さいね今考えます!」
それを全く気にした様子のないハルもハルだが。
さて、ここで私の偏見と先入観たっぷりの第一印象を言わせてもらうならば。
カルロ = 軽薄軟派男
アレッシア = 単純明快元気娘
ジュリオ = 軟弱気弱少年
以上。
勿論見た目通りの人間でない事は百も承知である。
ただ、これから共に生活していく以上、そういう態度で臨むつもりなら私はそれに合わせる必要がある。
・・・・彼女に余計な心配は掛けたくない。
という私の慎ましやかな心遣いを他所に、彼女は嬉々として部下に質問し始めた。
「じゃあ、どうして『一応』独身なんですか?」
「おっ!良くぞ聞いてくれました流石俺の上司!」
「・・・あっちゃぁ」
「う。また、始まった・・・」
(・・・始まった?何が?)
何だか不吉な予感がする台詞に私は思考を止め、楽しそうなカルロとハルを見やった。
うんざりした様な男女を尻目に、彼はどこか芝居がかった切なそうな笑みを浮かべる。
「俺には昔、一年付き合った女性が居てな・・・・将来結婚まで約束した最愛の恋人が、置手紙を残して姿を消してからもう三年経つ・・・・
嗚呼あんなに愛し合ったというのに何故!?今君は何処に・・・?」
(・・・・うっわ・・・・)
駄目だコイツ。ハルと同じだ。
『妄想属性』だ!!
私はドン引きした。が、同じ属性だけあってかハルは同情の目で彼を見つめる。
「・・・可哀想です・・・」
「そうだろうそうだろう。お陰で独り身のまま・・・・今漸く新しい人に目を向けられるようになったところなんだ・・・」
「カルロさん、頑張ったんですね!」
「おう!」
何意気投合してやがるこの妄想組!いい加減おかしいことに気付け!
と心底そう思ったが、似非新人の手前突っ込みは声には出せない。
対処の方法が見つからなくて無駄に頭を巡らせているとカルロは更に暴走し始めた。
「そう・・・彼女と出逢ったのは三年前の夏・・・・人気のない朝のビーチで二人は・・・」
待て、出会い?・・・・おいおい自分の彼女との思い出を一から語るつもりかこの男。
陶酔している男に言葉を掛ける勇気はなかったので、仲間であろう残りの二人に視線を向けた。
問いかけの意味を含めてたそれは、相手と目が合った瞬間にバッと逸らされてしまった。
正に、『私は何も知りません』。
ハルは元より頼りにならない。ロマンチック好きな彼女は本当に、本当に楽しそうだった。
止めたらきっと私が悪者になってしまいそうな雰囲気が其の部屋中に蔓延している。勘弁して欲しいのだが。
(・・・・どうしよう、マジで止められない)
―――そうしてカルロの、本当かどうかも疑わしいほどのべたべたな恋愛話は、延々と三時間は続いた。
人の恋愛話などに全く興味はない。就業時間を過ぎてもまだ続く話にもう半ば切れかけていた私は。
合計六回にも及んだ紅茶のお代わりを淹れながら、己に誓った。
・・・・・・・・・冗談でなく、絶対に。
明日から嫌というほど扱き使いまくってやろう、と。