居場所をなくして行く先も見つからないでいた俺達を拾ってくれたのは、ドン・ボンゴレ。
あのままだったら、三人諸共絶対殺されてた。
その恩は返すつもりだ。勿論、命を掛けて。どんな事だってやってやる。
・・・・・でもよ、これってどうなんだ?
灰色の夢
元々スパイだった俺達は、ボンゴレに入ってから何故か情報処理部門へ行くように言われた。
最初は意味不明だったが、今にしてみればその意図が分かる。第九班で、スパイ紛いの事をしろってわけだ。加えて護衛も。
それで一週間に一度、ボスに直接報告しに行かなければならないのだ。
今のように。
「よ、三人衆。これから報告か?」
「あ、山本さん。お疲れさまっす」
「はいっ!今ボスのところへ報告にいくところなんです」
「・・・・えと、そういうこと、です」
「初仕事だな。頑張れよ!・・・つってもまぁ最初だからな、大した報告もねぇだろうけど」
「・・・・・・・・・・・」
能天気ともとれるその態度を、今だけは詰りたくなった。
俺達は一瞬目と目を見交わせて押し黙る。彼はそれをどう勘違いしたのか、俺の肩を励ますように叩いて笑う。
「大丈夫大丈夫。俺も今から上に行くから何も心配すんなって」
「・・・・はは・・・そうっすね・・・」
最早乾いた笑いしか返せないまま、脳裏にここ一週間の生活が巡り、唯一の同僚の姿が浮かぶ。
有無を言わせぬ笑みと丁寧な所作のギャップが酷く恐ろしいものに見えた。
それから連れ立って執務室へ向かうと、俺達はボスと幹部三人というゴールデンな面々に迎えられた。
幹部三人は此方を見ようともせず、ただボスの後ろで壁にもたれたり椅子に座ったりしているだけ。
え、何で?偶然?そんなはずは・・・
・・・・・いや、偶然だ。偶然という事にしておこう。深く考えるのは止めた方がいい。
「こんな夜中に呼び出してごめんね。中々予定が空かなくて・・・・・」
葛藤している俺とは対照的に、ボスは落ち着いた、柔らかな声でこちらを労う。
「三人共、一週間お疲れさま。君達には随分慣れない仕事だったと思うけど」
「あ、いえ。大丈夫です」
としか言えない。俺は結構努力して笑みを浮かべ、話を流す事にした。
多少顔が強張っていたのかもしれない。ボスは心なしか眉を顰めて此方を見やる。
「何か、あったの?・・・こんな最初から?」
「そんな事はないです!・・・危険な事は一切ありませんでした」
「そう?・・・・ならいいんだけど」
ほっと安心したように息を吐くボス。それを見て胸を撫で下ろす俺達。
執務室が和やかな空気に包まれたところで俺はそのまま報告に入った。
「では、報告します。・・・・・まずは班長とさんの行動についてですが―――」
彼女達がどんな風に日常を過ごしているのか。また、の仕事遂行能力はどれ程か。
班長に何か危険な事は無かったか。二人の関係は良好か。
等々、その都度質問が出され、俺達はそれに答えていった。
「うん、今日はこの辺りで良いよ。ありがとう」
「ま、上々じゃね?こんなもんだろ」
「はい。有難うございます」
「で、実際どうよ。情報処理部門、上手くやっていけそうか?今までと余りにも系統が違うから戸惑ってねぇ?」
「・・・・・・・・・」
これで終わりか、と気を抜いた瞬間に投げられた質問。それに俺達は再び沈黙してしまった。
思い出されるのは、山ほど積まれた書類と、同僚の笑顔と。
・・・・・・指の、痛み。
「げ、何か問題でもあったのか!?」
「問題、というか・・・・その・・・・」
「いえっあたし達の能力が低いだけですから!」
「能力?何の話だ?」
「・・・それ、は・・・」
「気にしなくていいから、何でも言って。君達にこの仕事を押し付けたのは俺だから。出来るだけ手助けするよ」
「・・・ボス・・・・・」
俺には・・・・否、俺達には、ボスが神の使いに見えた。
この際恥も外聞も関係ない。言ってしまおう!
「・・・実は、・・・・・・・・・・し、仕事が多いんです!!」
「・・・・・・・はい?」
「・・・はぁ?」
何言ってんだコイツ、みたいな目で見られた。でもここで怯む訳にはいかない。これはチャンスなのだ。
訝しげな視線を撥ね退けるかのように、強く意志をもって言葉を続けた。
「確かに俺達は元スパイでパソコンなんて大した頻度で使ったりしないんです!でも」
「最初はあたし達の能力が低いのかって思ってたんですけど・・・っ日が経つにつれてこれはちょっと異常じゃないかと」
「・・・・・・・・僕、指の筋肉痛って始めて、で・・・」
指の筋肉痛!?・・・そうボスの後ろの方で声が上がる。
良かった、この人達も異常だと思ってくれているのだ。その反応に力を得てすかさず畳み掛けた。
「それから・・・・よく班長とさんと食事に行くんですが・・・・」
「・・・・食事?」
が、食事という言葉にぴくりとボスが反応する。どうしたのだろうと思っていると、山本が間に入ってボスを宥めた。
「まあまあ。・・・で、食事がどうしたって?」
「・・・・・食後のデザートを食べに行こうって言われて・・・・・駅前の、『サバト』っていう、パフェ専門店に、行って・・・・」
「その店っていうのが、超ピンクフリフリの、女性客がほぼ全てを占めているという人気店だったんです」
「・・・・・まさか、行ったの?その服、で?」
「・・・・・・、はい・・・」
「・・・・げ・・・そりゃ、俺も嫌だわ」
ジュリオはともかくとして、自分で言うのもなんだが、俺は黒服だといかにもアッチ系な人間だ。
故にそんな可愛らしいパフェしか置いてない店に行くと、目立ちまくる。
物凄く視線が痛かった。凄まじく痛かった。穴でも掘って入りたかった。
(・・・・・もう当分パフェは見たくねぇ。マジで)
「・・・ご、ご愁傷様だね・・・・うん、そうだ!手当てを出しておくから、それで」
「・・・・お気遣いありがとうございます」
「はは・・・」
ま、それ以外は別に何の問題も無い。あの二人は話していて結構楽しめることは事実だ。
・・・・ボスがこんな風に監視するってのは、それなりに理由があるんだろうが・・・・
命が惜しけりゃ詮索無用ってことだろう。
「それじゃ、今日はこれで失礼します」
「あ、お疲れ様でしたぁ!」
「・・・・その、失礼、しました」
「三人共本当にご苦労さま。これからも・・・・できれば宜しく」
「頑張れよ!!」
―――命掛けると誓ったのだから、これくらい。
耐えなきゃ駄目なんだろうな。きっと。
・・・ああもう全く、ツイてねぇなあ。ホントツイてねぇ。
だろ?
似非新人が去った後の執務室。
「流石さん。有言実行、ってことかな」
「・・・・・いやそれよりも何とかしてやれよツナ・・・・・・」