休日を挟んでボンゴレに出勤すると、着いた直後に再び上から呼び出しを喰らってしまった。

私、地位的に通常有り得ない頻度でボスと面会してるんですけど。

 

・・・・・あの、それってどうなんでしょうね?

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

まあ用向き自体は心得てるつもりだ。心当たりは痛いほど持ち合わせていた。

事態改善を求めるようであれば、考えてやらないことも無い。

 

十分堪能させてもらいましたから、ね。ふふふ。

 

 

 

「失礼します」

「あ、さん。おはよう」

「おはようさん」

「お早うございます」

 

 

 

出迎えたのは、うさんくさいボスとあの似非新人を選んだ人事担当の山本。

・・・・に加えて、ソファの端から黒い足がはみ出ているのが見えた。

 

 

 

「お早う恭弥。それとも寝てるの?」

「・・・・・・・起きてる。一応」

 

 

 

彼はソファに寝そべったまま起き上がることもなく、左手を背凭れの上からひらひらと振っただけ。

 

・・・・まともに挨拶を返さないのはホントに変わってないな。

 

 

 

「それでさん、聞きたいことがあるんだけど」

「何でしょう?」

「この間の・・・『新人』達の事でね」

 

 

 

ちょっと気になることが、と苦笑するボス。

 

苦笑。

それは山本にも言えることだった。彼らは二人共苦笑して私を見ている。

・・・・あの似非新人共、どんな報告をしたのやら。

 

 

 

「ああ、カルロさん達のことですね」

「うん。彼らとは上手くやってるのかな?」

「はい!」

 

 

 

笑顔も高らかに、私はそう言い切った。

 

すっぱりきっぱりそれはもう見事な言い切りぶりだったと今でも自負している。

 

 

 

「新人、との事でしたので余り期待はしてなかったんですけど、仕事するのが物凄く速くて正確で。

―――予想外に有能でした」

 

 

 

これは本当。

 

ボスの手先という事と長々と興味のない話を聞かされた事への八つ当たりと苛立ちもあって

上にお願いして三人の仕事量を少ぉし増やした上に、私とハルの分まで押し付けてやった。

 

が、引き攣り笑いになろうと筋肉痛になろうと画面の見すぎで目が疲れて頭痛がしても。

 

彼らは必ず時間までにそれを仕上げた。それも、完璧に。

 

 

 

・・・・私は内心舌打ちしたものである。

 

 

 

「外出するときも、心強いですしね。皆さん結構腕が立つようですから」

「・・・・そう、なんだ」

「ええ。流石、山本さんの選んだ方達ですよね!」

「お?・・・おう!サンキューな!」

 

 

 

にかっ、と笑う山本。褒められて嬉しいのだろうが、多分何もわかってなさそうである。

本題すり替えに成功、か?内心にやりとほくそ笑みつつ、表面上は明るい笑顔を保つ。

 

と、そこに声が掛かった。

 

 

 

「・・・・それ、気持ち悪いんだけど」

「・・・・何唐突に。それに代名詞じゃ分からないけど?」

 

 

 

ソファで寝ていた筈の恭弥が、いつの間にか起き上がりこちらを見ていた。

しかも物凄く嫌そうに顔を顰めつつ瞳に剣呑な光を浮かべて睨みつけてくる。

 

 

 

「その口調と顔。気持ち悪い」

「あら顔は自前よ?」

「・・・・咬み殺す」

「ちょっ、」

「雲雀さん?!」

 

 

 

ふと、突風、が、吹いたように。

 

 

予備動作無しで投げられたトンファーが綺麗に回転しながら飛んできた。

私は張り付かせた嘘臭い笑みを即座に消し、目の前を通り過ぎようとしていたそれを捕まえる。

 

 

 

「・・・・・・・恭弥」

「なに」

「なに、じゃないわよ。窓割るつもり?」

 

 

 

私が捕まえなかったら、フライング・トンファーの行き先は、窓。

マフィア本部の中枢だけあって銃弾や爆弾にさえ耐えられるような特殊強化ガラスだろう。

 

・・・・だが、恭弥なら割りかねない。

うん、割るな。絶対割る。

 

 

 

しかし対ボスだからと愛想よくしていただけで凶器を投げられたのではたまったものではない。

相変わらず暴力好きな幼馴染に苛立ちを覚えた私は、トンファーを構えて、笑い。

 

 

 

「じゃ、お返しという事で」

 

 

 

必要最小限の動きで思いっ切り投げつけた。

彼の喉を狙ったつもりだけど、慣れたもので、受け止められた手にも特にダメージは無く。

 

 

 

「あ、やっぱスピードは劣るわね」

「・・・別に。悪くはないんじゃない」

「そう?」

 

 

 

何だか和んでしまった。

 

 

 

「はいそこ二人!トンファーで遊ばない!」

「キャッチトンファーか・・・・・俺ボールなら得意だけどな」

「山本もやりたそうな顔しないの!」

「ちょい楽しそーじゃん」

「・・・・・・コイツ、野球バカだからね。言っても無駄」

「っていうか、どこまで話してましたっけ?」

「・・・・・・・・・・・」

 

 

 

ボスはふう、とわざとらしく大きなため息を吐く。

それを聞いて私達も、流石に遊びすぎたと姿勢を正した。

 

 

 

「でね、さん」

「はい」

 

「彼らが有能なのは良い事だよ。使いたいのも分かる。・・・・だけど少し、負担になってるんじゃないかな?

彼らはこういう仕事初めてだから、戸惑う事も多いと思う。だから、さんの方からフォローして貰いたいんだ」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

その主張は最もであり、私も譲歩する事に異論はない。

 

だがどうしても、一つの誘惑に負けそうになってしまうのだ。

 

 

(もし、今、ボスに。この間三人を連れて行ったパフェ屋で起こった事を言ったら・・・?)

 

 

引き攣り笑いを浮かべながら周りの女性の白い目に耐えていたカルロとジュリオ。

黒服を着た彼らに、否そもそも闇に生きる男として、可愛らしいトッピングが施されたパフェを食べられるわけも無く。

コーヒーを飲んで下ばかり向いていた彼らを可哀想になったのか。

 

 

ハルは 『はい、あ〜ん』 とばかりに二人の口にスプーンを突っ込んだのだ。

 

 

人皆、それを間接キスという。

 

 

(しかもその後。二人が茹蛸みたいに赤面してた、なんて言ったら・・・・どうなるかしら)

 

 

私は生温い笑みを浮かべて、ボスを見た。

本当に、喉まで出かかっていたのだけれど。物凄く見たいと、思うけれど。

 

・・・・流血沙汰になりかねないわね。止めておきましょう。

 

 

 

さん・・・?」

「いえ・・・・・わかりました。私も調子に乗っていた所がありましたので、きちんと改善します」

「・・・ありがとう。朝から呼び出してごめんね」

「いいえ。支障はありません」

「それじゃ、これからもよろしく」

「・・・はい」

 

 

 

私は一礼し、去り際に恭弥に笑い掛けてその部屋を辞した。

・・・・これは、何かの時のネタに使えるな、なんて思いつつ。

 

 

その時は、暢気に、過ごしていたのです。

 

 

 

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