単純な仕事だと、思っていた。
否、事実、そのはずだったのだから。
灰色の夢
Dr.シャマル。
三度の飯より女好き、超キス魔で女しか診ないという変態の医者。
・・・だが、恐ろしく腕は立つ。
その裏の顔は『トライデント・シャマル』の異名を持つ、天才殺し屋―――
「・・・・お前さん、結構地味だな。情報屋っつーともっとなんかこう・・・・」
(・・・なの、か・・・?)
初対面の癖に失礼すぎる言葉を投げられ、私の中の彼に対する印象が悪くなったことは間違いない。
というか私に一体何を期待してたんだ。地味で結構だっつの。
「―――『Xi』です。初めまして」
「シャマルだ。ま、気楽に行こうぜ、気楽によ」
「・・・・・・・・・・・・はぁ」
「おいコラおっさん。真面目にやれよ!元はてめーの失態が原因だろうが」
「うるせー。だからこそこうしてこの俺様が遥々本部まで出向いてやってんだろ?」
「だぁっ!威張るな!!」
「はいはい、獄寺君落ち着いて。・・・Dr.シャマルも程々に」
益々良く分からなくなってきた。
シャマルの言葉からして、彼はボンゴレファミリーではない。が、少なからずの縁はある。
この依頼は彼一人ではなくボンゴレにも関る話・・・・そしてそもそもの原因はシャマルに・・・?
失態、と獄寺は言った。
最近の情報部の慌しさと、何か関係があるのだろうか。
勿論今の私に問う権利は無いけれど。
「じゃ、始めるか」
「何仕切ってんだよ」
「・・・・・・で、依頼なんだが」
綺麗に獄寺を無視したおっさん・・・・もとい、Dr.シャマルは私を見てそう切り出した。
私はそれに頷いて、平坦な口調で説明を促す。
「はい。下で軽く説明を受けましたので、ターゲットの詳細をお願いします」
「・・・・・・・・・・ああ」
彼から示された書類。それは全部で十枚にも及んだ。
一番上にはターゲットらしい男の写真が留められている。・・・・一見、まだ若い。
「悪いが、これはここで覚えてくれ。・・・・間違っても、声には出すなよ」
「・・・了解しました」
それから誰も口を開かず、いっそ奇妙なまでの静けさの中で私は仕事を始める。
私は丁寧に書類を確認し、その内容をしっかりと頭に刻みつけた後、シャマルに返した。
・・・・結構視線が痛かった。
「依頼の内容は、ターゲットから『それ』を奪還する――、ということで間違いありませんか」
「ああそうだ。・・・ただし、それが不可能な場合は」
シャマルの瞳が鋭く光る。
「――――・・・・どんな手を使ってでも『それ』を破壊しろ」
「ターゲットの生死には拘らないと?」
「ターゲットと、その関係者もだ」
「・・・わかりました。では他に何か制限などは・・・」
「それ以外はお前さんの自由だ。適当にやっといてくれ」
「ありがとうございます」
適当に、ねぇ。・・・依頼者にしてはいい加減な言い草である。
そのことに多少引っかかりを覚えながらも、私はその依頼を正式に引き受けた。
思っていた程難しい仕事でもなさそうだ。少なくとも、前の依頼よりは遥かに。
私は肩の力を少し抜いて、自分の執務机から動かないボスの方を向いて言った。
「ところでボス。このパーティーにはどなたか出席されるんですか?」
「うーん・・・あんまり大きなものじゃないから幹部以上は行ったりしないかな」
「成程。じゃ、結構気楽なんですね」
「そうだね。でも今回は情報部も出席報告を出してるから邪魔されないよう気をつけて」
「それは大丈夫です。お気遣い無く」
親切にもボスが心配してくれたが、私はバッサリと笑顔で切り捨てた。
前のように突っ込みが入るかと思ったが、慣れたのか誰も何も言って来ない。
・・・・反応がないと面白くないな。
「さん、他に何か質問は?」
「じゃあ最後にひとつだけ。・・・・この依頼って、私一人でやるんですか?」
「え、駄目かな」
「駄目ではありませんけど・・・・・・パーティーですからちょっと・・・」
「。話は簡潔に言いなよ」
「あら失礼。・・・そうですね、有体に言うなら・・・アシと適当な虫除けが欲しいんです」
「あ、アシ?虫除け?」
「パーティーは普通同伴付きでしょう?女が一人でうろついてたら、結構目立つんですけど」
「・・・・あぁ、確かに・・・・・・・・そういうことなら、誰か適当なのを用意しても構わないよ」
「本当ですか?」
そこで私はにっこり笑う。
「でしたら私はカルロ・アレッシア・ジュリオの三名を希望します」