袖口に潜ませた超小型カメラは何時でも準備万端。

 

・・・・シャッターチャンスは逃しません。

 

 

灰色の夢

 

 

 

「・・・え・・」

「あいつらを・・・?」

「はい。聞けば、あの三人って元々はスパイだったそうじゃないですか」

「い゛!?・・・あー・・・さんそれ、何処でそんな事聞いたんだ・・・・?」

「企業秘密です」

 

 

 

さて、山本にはこう言ったが、『聞いた』というのは正しくない。

似非新入り三人に仕事を押し付け、ハルには偽の仕事をさせ。

 

残った私は有り余る時間を使ってボンゴレ内の極秘フォルダにアクセスして情報盗みまくっていました。

 

めでたしめでたし。

 

 

 

「物凄く適任だと思いますけど・・・いけませんでしたか?」

「ん、いや・・・いいんじゃねぇの?他の奴らよりかは・・・安心だろ」

「・・・・・・・・・」

 

 

 

何故だろう。珍しく山本の歯切れが悪い。

もしかしてまた私が彼らを扱き使ったりするかもと心配しているのだろうか。自分で連れてきたのだから情も湧くだろうな。

 

・・・・でも。スパイだったのなら演技は完璧だろうし、多少なりとも付き合いがあるからやりやすいのも確かなのだ。

 

よし。

 

 

彼には悪いが、ここで一押ししておこう。

 

 

 

「あの、ボス」

「どうしたの?」

 

 

 

私はソファから立ち上がり、ボスの執務机の前に立つ。

そして鞄から薄い茶封筒を取り出し、そのまま彼に手渡した。

 

 

 

「これでも・・・・駄目、ですか?」

「?」

 

 

 

ボスは若干不思議そうな顔をしながらも、傍に置いてあった見事な細工のペーパーナイフを使って封筒を開けた。

逆さに振って出てきたのは、三枚の写真と、小さなカード。

彼がそれを手に取って、写っている「何か」を認識してから約2秒後。

 

・・・・ペーパーナイフを片手に持ったまま、ボスは石像の様に硬直した。

 

 

ものすっっごく平凡で面白みの無い反応だった。

 

 

(・・・・あら?意外に結構冷静じゃ)

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ばきっ!!

 

 

 

(っ?!)

 

 

 

ボスの反応をじっと観察していた私の思考は、何やら不吉な音に遮られた。

 

・・・・どうやらそれは、ボスが持っていたペーパーナイフが・・・・・・・折れた、音、のようで。

 

 

 

「じゅ、十代目!?」

「どうした、ツナ!」

 

 

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐ幹部共と変態医者。中にはこちらに訝しげな視線を送ってくる者もいる。

それでも気にせず私はボスの右手の中で半分砕けたナイフを注視しまくっていた。

 

林檎や西瓜じゃあるまいし・・・否、流石ボスと言うべきだろうか。物凄い力だ。

 

 

 

と、その瞬間。

 

 

―――凄まじい怒気がその部屋に充満した。

 

 

 

 

(ぅおう)

 

 

ボスに渡した写真は、あの『パフェ屋「はい、あ〜ん」事件』の決定的瞬間がばっちり写っている。

 

一枚目はカルロが不意を突かれてハルにスプーンを突っ込まれている写真。

二枚目はそれを見たジュリオが唖然としている隙にフォークに突き刺したイチゴを突っ込まれている写真。

三枚目は満足そうに笑うハルと、赤面している男共が綺麗に写っている写真。

 

 

 

ふと、ボスが写真から顔を上げ、私ともろに視線がかち合った。

直接向けられているわけでもないのに、彼が纏うその空気は強く私を圧迫し、背筋に悪寒が走る。

それに加え、心臓が凍りそうな程超美麗な冷笑付き。―――気の弱い人間ならそれだけで昇天しそうである。

 

やっぱり地雷踏んだかな、私。

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

見詰め合う事数秒、私達はアイコンタクトを交わし、相手の意図を探り合う。

 

そして先にボスが口を開き。

たった一言。

 

 

 

「――許可するよ」

「・・・・有難うございます」

 

 

 

何と言われなくても私にはわかっていた。一番上さえ攻略できれば、その下にはもう用は無い。

怒気は消えなかったけれど、私の返答にボスは満足げに笑った。

 

 

 

「任せたよ、さん。しっかり扱き使ってあげてね」

「はい。心得てます」

 

 

 

 

と、いうことがあって。

私は似非新人三名をアシと虫除けに使えることになった。

 

勿論、あのネタを披露したいが為に彼らを指名したのではなく、彼らが必要だからこそあのネタを披露したのだ。

 

 

・・・・決して、面白半分で彼らに同行を求めたわけじゃない。

 

 

 

 

今ではもう、救いようの無い言い訳にしかならないけど。

 

 

 

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