私は挨拶もそこそこにその部屋を辞した。
絶対零度の笑みを浮かべたボスに見送られ、複数の恨めしげな視線を背に受けて。
・・・・何のフォローも無しに出てきたのはマズかっただろうか。
灰色の夢
情報部情報処理部門第九班の部屋まで帰ってきて漸く私は息を吐いた。
―――嫌な仕事だ、と思う。
私を何でも屋か何かと勘違いしてるんじゃないだろうか。ボスの下についた時点で同じ事かもしれないけれど。
「それに生死は問わないとか言って。殺し屋の真似事までさせる気かあのおっさん」
自慢じゃないし、自慢できる事でもないけれど。
私は私の意志で人を殺す。誰かに命令されてやったことなどただの一度も無い。
だから今回だって殺さない。
・・・・絶対に、殺すものか。
私はすっかり日の落ちた窓の外を眺めながら、暫くの間じっとしていた。
次の日。
早朝、ボンゴレ本部のとある一角で私とハルはコーヒー片手に向かい合っていた。
挨拶もそこそこに、話題は勿論依頼の事である。
時間が経って多少落ち着いたのか、ついこの間まで感じていた余所余所しさが消えている。
「そういうことになったから、私とあの三人は23日には居ないからね」
「えぇ?カルロさんたちも行くんですか?」
「パーティーに一人寂しく行くのも何だし。ボスもやけに快く許可してくれたわよ。・・・・あ、何だったら休暇でも取る?その日一人になるでしょう?」
「あ、と・・・それなんですけど、・・・・ハルもパーティーに出席する羽目になっちゃいまして・・・・・」
「え。何それ」
「上からの命令なんです。あの部長から直々に・・・・出席する人数が急遽少なくなったから是非行って欲しいって」
「はっ。あの業突く張りの部長から直々?まあ随分と気に入られたようね」
「・・・今回のパーティー主催ファミリー、余り評判良くないですから誰も行きたがらないんですよ。・・・部長はその、東洋人が好きじゃないみたいで。
何かと押し付けられるんです」
普段では滅多に浮かべない種類の翳った笑顔でハルは言う。確かにあの男はいつも私達を敵視しているように思えなくもない。
大方、東洋人がいきなり班長になったことが気に入らないのだろう。
その実情がどうであろうと。知ろうともしないで。
「その辺りのフォロー位して欲しいわね・・・」
「はい?」
「あ、ううん、何でもない。・・・でも・・・・えっと・・・そうそう。ひとつだけ言って置きたいんだけど、いい?」
「、?・・・何ですか?」
ただ。また彼女の前で人を傷つけるような真似をして、距離を置かれるのはちょっと困る。
ターゲットの生死は問わない等という物騒な依頼。
その行動に対する理解を望みはするけれど、焦りは禁物なのだ。
「依頼は出来るだけ平穏に終わらせたいから、細心の注意は払うけど・・・・もし、危険な事になりそうなら直ぐ逃げられるように
心の準備だけはしておいてね?無理矢理引っ掴んで退避するかもしれないし」
「な!・・・・わ、わかってます。ハルに、・・・ハルでも何か出来る事があるなら、何でも言って下さいね!パートナーですから!」
「そんなこと言うと、・・・・当てにするわよ」
「・・はい!」
そうして笑った彼女の顔は、最近ご無沙汰だった明るい笑顔で。
何だか心が暖かくなるような気がした。
「よっし!そうと決まれば服買いに行きましょう服!」
「仕事はどうするの仕事は」
「さんが頑張れば心配要りませんって!」
「まあ、そうだけど・・・・って何さり気に押し付けるつもり!?」
「いい店教えますから、ね!」
「・・・・・・あぁもうはいはいわかりました。班長の仰せのままに」
「じゃあカルロさんたちも誘いましょう!!」
「そうね・・・・・・・・・って待て待て、流石に四人分はキツイから!」