パーティーは夕刻に幕を開ける。

 

その当日、昼下がりに私はまずハルの家に行き、そこへカルロ達が車で迎えに来ることになっていた。

私は約束の時間より少し早めに彼女の家を訪ねた。

 

・・・・勿論、仕事用にきっちりとめかしこんで。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

チャイムを一度に三回鳴らす。

 

まあ軽い合図のようなものだ。少し待つと慣れた彼女の気配が近づいてきて、鍵が開けられる音がした。

私はゆっくりと顔を覗かせた我らが班長に挨拶をする。

 

 

 

「こんにちは、ハル」

「はいこんにち―――」

 

 

 

と、顔を覗かせたハルが何故か私を見て凍りついた。

否、固まったと言う方が正しいのかもしれない。

 

今の私は所謂イブニングドレス姿で深い色のショールを羽織っている。

緩く編みこんだ髪にシルバーの簪と見せかけた仕込み刃。胸元を飾るネックレスの宝石は、強い衝撃を与えると煙幕に。

 

まあその他色々、完全武装をしております。

 

 

 

「・・・・・・・ど」

「ど?」

「―――どちら様ですか・・・・!?」

「まあ酷い。自分のパートナーに向かってそれはないんじゃない?」

「いえ、でもっさん!って、さんなんですよね!?そ、それは可笑しいですって本当に!!」

「化粧した私を見てみたいって言ったのはハルじゃないの」

「・・・っ・・・・」

 

 

 

ふふふ。

 

こうも素直な反応を返してくれるとは。予想範囲内とはいえ、中々愉快なものである。

私は今朝この化粧の為に二時間半は費やした。・・・化粧自体は余り得意ではない。

 

 

今回のテーマは『ミステリアスな深窓の令嬢・マフィアver.』。

 

 

やる度に思うが、本当に別人になる。素材は同じはずなのに・・・・どうしても『私』と結びつかなくなるのだ。

 

その点、下手な変装よりは遥かに有利ではあるが。

 

 

 

さんっ・・・・今のさん、物凄く綺麗ですよ!」

「・・・・。褒め言葉として受け取っておくわ」

「でも不思議ですね。思ったより化粧の色が地味と言うか」

「せめて控えめと言ってくれる?」

 

 

 

今回は目立つ必要は無いし、媚を売るまでもないだろう。

無論、ターゲットが好色家であったりすれば考えるのだが。どうもそんな気配はない。

 

 

 

「目指すは平均、ってね。記憶に残らない顔にしたつもりよ」

 

 

 

印象の薄い顔。一夜限りのパーティーにはそれで十分だ。

 

 

 

「――あ、それでこのパーティーが終わったらハルどうするの?私達は報告しに一旦本部へ戻る予定なんだけど」

「ハルは別に報告の必要も無いですからね。ただ出れば良いそうなんで・・・そのまま帰りましょうか?」

「それはそれで少し心配だわ。パーティーが終わるの、夜が更けてからよね?やっぱり誰かに送らせて――」

「じゃあハルもさんと一緒に居ます!・・・あの、勿論仕事中は邪魔しませんから」

「・・・・・ハルなら邪魔になんかならないわよ。確かにその方が色々と安全だしね」

 

 

 

因みに彼女は綺麗な空色のミディアムロングドレスを纏っている。

何をどうやったのかは分からないが、髪もドレスに合うようアップされていて。

 

 

・・・・・・・・・取り敢えず私よりも視線を集める事だけは保障しておく。

 

 

 

「さっさと終わらせてくるから。出来るだけカルロ達と一緒に居て」

「・・・っはい!頑張ってください!」

 

 

 

いい笑顔だった。

見ている私が元気になれるような、とてもいい笑顔だった。

 

 

(・・・案外こういう姿も写真に取っとくと喜ぶのかしら。・・・・でもそれじゃただの変た・・・、いやストー・・)

 

 

 

「あ、さん!皆の車が着いたみたいです」

「え?・・・あぁ・・・・そのようね。じゃ、忘れ物はない?」

「勿論!朝から二十回はチェックしてますからばっちりです」

 

 

「そう。それじゃ―――行くわよ、ハル」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

その後、ハルの家の扉前にて。

 

 

 

「な!だ、誰だアンタ!?」

「えっ・・・!?」

 

 

 

ハルと同様予想通りの反応を返してくれたカルロに、私はショックを受けました、という表情で応えてやった。

 

 

 

「そんな・・・短いとはいえ今までずっと一緒に仕事してきた同僚に向かって・・・・そんな酷い事って・・・・・!」

「は!?あ、お前!?・・・・・・・いやいやちょっと待てお前それは詐欺だろ!!」

「・・・・・・ふぅん。それって、地球上の化粧をする女性全てを侮辱する言葉として受け取ってもいいわけだ?」

「げ」

「こら馬鹿ルロ!さっさと謝って!」

「・・・・・綺麗、だから・・・いいと思う・・・・」

「―――っだぁ!俺が悪ぅございましたよ!!」

「あら、どういたしまして」

 

 

 

こんなやり取りの後、私達は車に乗り込んでパーティー会場へと向かった。

車内では運転しているジュリオと仕事の最終調整をしている私を除いて皆がお喋りを楽しみ、和やかに時は過ぎていった。

 

 

・・・・まるで嵐の前触れであるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ↓

 

 

「へぇ、カルロさん達って山本さんと良く会うんですか?」

「まあな。今日も何か・・・獄寺さんと一緒に見送ってくれてさ・・・・」

「そうそう。でも様子が可笑しかったんだよね。まるで哀れむみたいににカルロとジュリオを見て・・・『取り敢えずは無事で戻れよ』って肩叩くの」

「何だろな・・・?」

 

 

 

え。まだ怒ってるのボス。

 

 

 

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