そうそう上手く事が運ぶ訳が無いけれど。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

パーティー会場は、とある高層ビルの最上階。

 

その地域では一番高い建物で、窓からは遥か遠くの景色まで見渡せる。

暗くなれば綺麗な夜景が見えるだろう。

 

 

私はハル達よりも少し遅れてパーティー会場に足を踏み入れた。

最初から一緒に居るのは少しマズイだろうと思ったのだ。ハルはきっと挨拶回りでもするだろうから。

 

 

 

「・・・・・・黒っ」

 

 

 

中を見て私は思わず呟く。

 

会場に居る大半が恐持ての男で、その殆どがダークスーツ。蝶ネクタイなどで多少ドレスアップしているものの・・・・

何と言うか。

 

―――むさ苦しい。

 

 

うん。やっぱり連れて来て良かったな。ここじゃあの三人が天使に見える。正直、あのカルロでも。

 

・・・・それはさておき、そろそろ仕事を始めねばならない。

 

 

(・・・・取り敢えず、ターゲットは・・・と・・・・)

 

 

何気ない振りを装って会場を見渡すと、それは直ぐに見つかった。

シャマルに見せられた写真にうつっていたターゲット。

 

二十九歳、独身。ボンゴレファミリーセキュリティ部門所属。

プログラミング能力の高さから他ファミリーより引き抜かれた天才ハッカー。

現在ボンゴレファミリーのセキュリティプログラムは殆ど彼が作成し、見事な実績を挙げファミリー内の評価が高い。

 

だが今回、彼は情報部より何らかの情報を盗み出したことが発覚し、ボンゴレファミリーより極秘裏に監視されていた。

そしてこのパーティーで誰かと取引をする事を探り出したボンゴレは、私に白羽の矢を立てたと。

 

 

このハッカーを失うのはボンゴレにとって痛い。

彼が取引を中止し、盗んだと見られる情報を返還すれば、多少の制裁は免れないものの絶対に命は助ける。

 

・・・・・・・しかし彼が拒否した場合は、その情報ごと消えてもらう。

 

 

 

つまりはそういうことなのだ。

 

盗んだ情報とやらは確かに気にかかるが何よりも奪還したいのはこのターゲットの存在。

ターゲットから『情報』を取り返すのではなく。ターゲットから『ターゲット自身』を取り返す。

それが無理なら全て無かったことに。

 

 

これがシャマルとボスが望んだ事なのだ。きっと。

 

 

だったら最初からそう言えよと思わないでもなかったが、資料にあったようにこれは極秘裏に進めなければならない事で。

天才がボンゴレを裏切ったとなれば、自分達の所に引き入れようとするファミリーが山程出てくるだろうから。

 

 

 

「・・・・ふ。説得に応じない様なら適当にボコるか」

 

 

 

物騒な台詞と共に決意を新たにし、動くべき時が来るのを待った。

その辺りにある料理で腹ごしらえをしながら。

 

(・・・・・あ、結構美味しいかも)

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃のボンゴレファミリー本部最上階。

 

 

部屋の中にはいつものメンバー。群れるのが未だに嫌いな雲雀でさえも、の事になると熱心に此処へ来る。

ツナは自分の椅子に凭れ掛かり、今日何度目になるのだろう深いため息を吐いた。

 

 

 

さん、大丈夫かな・・・」

「・・・・俺はあの三人の方が心配だと思うぜ?」

「・・・・・・・・・・ふぅん?」

「・・・・・げ」

 

 

 

山本はしまった、という顔をして黙り込む。

今のボスにあの三人の話題は禁句である。最も、アレッシアは関係ないと思うが・・・。

 

しかしそれを差し引いても空気が重い。

 

 

 

「あの、どうかしたんスか十代目・・・・?」

「え、・・・ああごめんね獄寺君。大した事じゃないんだ」

 

 

ちょっと、とボスは呟くように言う。

 

 

さんって・・・・こういう仕事、好きじゃなさそうだと思って。自分で頼んどいてなんだけどさ」

「あー・・・確かにそうかも」

「引き受けた仕事はちゃんとするだろ、アイツは」

「わかってるよリボーン。彼女の事は信用してる。だけど」

 

 

 

思いやれなかった自分が腹立たしいのだと言う。ボスとしては当然の勤めかもしれなくても。

 

するとソファを占領している雲雀が面白がるような口調で応えた。

 

 

 

「――・・・なら、適当にボコって持って帰ってくるんじゃない」

「・・・・・おいおい」

「まさか!テメェじゃあるまいし」

「いや?それもありだろ」

「・・・うんあるかも。だって雲雀さんの幼馴染だし」

「関係ねぇって・・・・」

 

 

 

果たしてそうかな?

 

 

 

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