誰も彼も最初は私がハルを引っ張ってきたと思うらしい。
私って、そんなに強引に見えるのか・・・?
灰色の夢
不審人物決定となった部長の事をハル達に任せ、シャンパングラスを持ったままその場を離れた。
いつでも動けるよう、時折窓に映るターゲットを確認しながらゆっくりと、しかし確実に近づいていく。
その途中、極稀に声を掛けてくる物好きな輩も居たが『・・人に酔ってしまって・・・』と偽りやんわり拒絶した。
勿論、私はこの二十数年生きてきて一度も人酔い等したことがない健康体である。
・・・そして近すぎず、遠すぎず、の距離まで来た所で私は壁に凭れ掛かかった。
(取り敢えず今はこの辺りに居て・・・・この男が動くようなら)
そのままあとをつけても良い。
それに、多少なら読唇術の心得もある。流石にリボーンが会得しているような読心術は無理だが。
誰かが接触してきても大丈夫。この距離でなら話は分かるだろう。
もう一度窓の方を見やるが、ターゲット本人は別に焦った様子も無く、ただ黙々と料理を食べていた。
うーん、当分動きそうもない・・・か?
単に状況を楽観視しているとも取れるが―――何にせよ、図太い神経をしている。
(・・・それにしても、一体誰と取引を・・・・?同盟ファミリーの誰か・・・・か、それとも・・・・)
何の情報が盗まれたかが分かっていれば検討もつく物を。
・・・ボンゴレ・ファミリーってそういう頭脳面に対しての対策が充実してないというか。
そうそう、幹部だってどうも戦闘向きの体力馬鹿が多いようにも思う。
だとすれば、もうちょっとハルを鍛え上げればその辺りのフォロー役が務まるかも・・・・
と、こんな風にボンゴレの悪口を心の中で呟いていたその時。
「・・・・っ!」
まるでタイミングを計ったかのように、私の携帯に電話が掛かってきた。
今は仕事中なので音声バイブ共切っている為周囲の誰にも気付かれた様子はない。
私はハンカチを出す振りをして携帯を確認する。
その相手、は―――・・・なんと恭弥だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
余程このまましらばくれてやろうかと思ったが、仕事中だと分かっていて尚掛けて来るのだから軽い用事ではないはず。
それに、如何せん、・・・・・無視すると後が怖すぎるような。
他にも携帯で喋っている人は沢山いるので目立つ事も無いだろう。
そう結論付け、仕方なくいつまでも切られることの無い電話に出ることにした。
「・・・はい只今仕事中です何か御用事なら三分以内に用件をどうぞ勿論出来るだけ手短に」
『君が“はい”以外のことを言わなきゃさっさと話は進むんだよ』
「で、何?」
『今そこに三浦ハルは来てる?』
「来てるけど。それがどうかしたの?」
一瞬の沈黙。
『・・・・・何で居るの。君が連れて行ったってわけ?』
「はぁ?何で私が。彼女にそんな危ない事させられると思う?」
『じゃあ、勝手に付いて来たって?』
「彼女は『Xi』の仕事に関してはノータッチよ。私は何も話してないし、彼女も聞くつもりは無いみたい」
『なら単にパーティーに行きたかったって事?』
「・・・聞いた話だと、急遽欠員が大量に出て人数合わせの為に出て欲しいって言われたそうよ?上から」
『・・・・・・・・』
「それ、何か変なの?」
『・・・・――さん、ちょっ・・・・』
「(サンチョ・・・?)恭弥?」
『もしもし、さん?』
え。ボス?
「・・・あの、何でしょう?」
『ごめんねいきなり。今の話、スピーカーで聞いてたんだけど・・・・』
「おかしな点でもあるんですか?もし、彼女が居てマズイ事でもあるなら今すぐ三人護衛にしてそちらに返しますけど」
『いや・・・、そういう事ならおかしくは無いよ。てっきりさんの仕事に付いて行ったのかと思っちゃって』
「手荒な事をしなければならない可能性のある場所に、今の彼女を連れて行くつもりはありません」
『・・・・うん。そうだったね』
相当重症だな、これは。
「・・・・・・私の方も、あまり時間をかけずに終わらせるつもりです」
『よろしく頼むよ』
「はい。何かあったら連絡しますので」
私はそこまで言うと、相手の反応を待たずに電話を切った。結構失礼だが気にしてない。
それよりも今ターゲットに話しかけた男がいるのだ。きちんと見ておかなければ・・・
ああ、考える事が増えてしまったじゃないか。先刻の電話が悪いのだ。
ボスの言葉の所為で、何だかあの部長に更に不信感を抱いてしまった。
放っておいても私達に害がないならいいのだが、あの部長ではそうはいかない。
と、そこまで考えた時、挨拶程度の事しか話してなかったターゲットと相手の男は移動し始めた。
考え事をする暇さえも与えられはしない。
・・・・今はターゲットに集中しよう。