何だかこの頃、力ずくで・・・が多くなってる気がする。

 

こんなやり方スマートじゃないって分かってるけど。

 

 

灰色の夢

 

 

 

人目を避けるように会場を出て行った二人。私はハル達を置いて後を追う。

彼らは会場の隣にある小さな部屋に入っていった。

 

閉じられる扉の隙間から、既に数人の黒服が居るのを確認した。見た感じではボンゴレではなさそうだった。

その後、丁度部屋の向かいに化粧室があったので取り敢えずはそこに潜む。

 

・・・・廊下に警備員が六人も立っていて、迂闊に動けないのだ。

 

 

(・・・パーティー開始前には二人しか居なかったのに・・・)

 

 

 

 

さて、どうしよう。

 

このトイレは目的の部屋の向かい・・・壁に集音機を取り付けようにも出来るはずがない。

かといってこのまま待機して出て来るのを待っている内に取引を終えられても困る。

 

仕方が無い。警備員の居る廊下でボコるのはマズイし、何とかしてあの部屋に入ろう。

 

・・・私はそう決めるなり、化粧室から出て真っ直ぐにその部屋へと向かった。

 

 

 

怪しまれないで入る方法、それはひとつ。

 

 

 

 

ノックは四回、上品に。ただし返事は待たずに開けて。

 

 

「失礼します」

 

―――超堂々と、入る事。

 

 

 

 

部屋に居た男達は唖然として私を見た。その隙にターゲットの位置を確認する。

彼らはあまりの私の落ち着きぶりに、侵入者だという考えに辿り着かないようだった。

 

後ろ手に鍵を閉めた私はさも当然の如く部屋の真ん中へと歩き、可能な限り艶やかに微笑みかける。

 

 

 

「初めまして。お話中のところお邪魔して誠に申し訳ありません」

「あ、ああ・・・?」

「突然で悪いとは思いますが・・・・・・・皆様方、しばしの間―――」

 

 

 

言いながらそっと右耳につけたイヤリングを外して。

 

 

 

「―――おやすみくださいませ」

 

 

投げつけてやった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・なっ!?」

 

 

 

中央のテーブルに叩きつけられたそれは瞬時に桃色の煙となって部屋に充満していく。

私は男共が怯んだ隙に、無防備なターゲットに近づいて後ろから口にハンカチを押し付けた。

 

生意気にも抵抗があったのでナイフを目の前にチラつかせる。と、大人しくなったのでそれから待つこと一分間。

 

 

完全に煙が消えるのを待って、私はターゲットを解放した。

 

 

 

 

すっかり見晴らしが良くなった部屋の中には、屍累々。

黒服の男達が折り重なるように倒れ、呻きながら時々何事かを呟いている。

 

 

 

「・・・・・・、今のは・・・」

「え?ああ。ちょっと幻覚作用のある睡眠薬です。人体に副作用は・・・・・・・・大した事はないので気にしないでください」

「その間は何だその間は。ってか何で睡眠薬に幻覚作用なんかあるんだ!」

「三十路前のいい大人が細かい事気にしない。禿げますよ?」

「お前な!・・・っいやそれよりも!お前は一体何者だ!?」

「分かりませんか?・・・取引を邪魔しに来るのなんて大体決まってるでしょうに」

「・・・・・・・・・!」

 

 

はっと息を呑んだターゲットに、私は言葉を続ける。

 

 

「ボンゴレファミリーからお迎えにあがりました、と申します。――貴方が選ぶことの出来る道は、ふたつ」

「・・・ボンゴレ・・・」

 

「その一、彼らとの取引を中止しファミリーに戻る。その二、このまま私の手にかかって死ぬ」

 

 

さあ、どちらを選びます?

 

・・・・最も、後者を選ばせるつもりは無い。

ターゲットはこうなる事を多少予想していたのか、驚きから立ち直るのが早く、意外にも落ち着いた表情を浮かべている。

 

そして傍にあった椅子に座ると、深いため息を吐いた。・・・何だ、こうして見ると三十路前でも通じるな・・・

 

 

 

「随分、バレるの早いんだな」

「Dr.シャマルが早々に手を打ったそうですからね。珍しく情報部も素早く動いてましたし」

「情報部、か。・・・・そりゃ動きもするだろうよ」

「はい?」

 

 

 

情報部、に含まれた奇妙な響きに私は眉を顰めた。

 

今回の情報漏洩事件、普段後手後手に回りがちな情報部が率先して動きこの取引のことを探り当てたという。

そして今のこのターゲットの台詞。

 

 

 

「・・・・まさか、貴方が盗んだ情報って・・・・情報部に関する事なんですか?」

 

 

 

それも、外に出してはいけないような。

答えを期待していたわけではなかったが、男はやたら素直に喋りだした。

 

その素直さが死を覚悟しての事なら、・・・悪い兆候ではあるが。

 

 

 

「まあ、そういう事になるか。情報部にとっちゃかなり都合の悪い話――だと思う。だからこそ取引の材料にもなる」

「・・・・それじゃ、情報部はどんな情報が盗まれたかを知っていて黙ってたってことになりませんか、それ」

「なる。情報部が後生大事に抱えてた代物だからな」

「スキャンダル、ですか?」

「・・・・・・・・」

 

 

 

男は肩を竦めただけで答えなかった。が、それは肯定しているのと同じ。

 

 

・・・・・・・・これは情報部全体を巻き込む大事件になりそうだ。

 

 

 

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