終わりは、突然に。

 

 

灰色の夢

 

 

 

「・・・身長の割りには軽い・・・・・んだろうけど、重っ・・・・」

 

 

 

私はターゲットの両足を引っ張ってずるずるとドアの近くまで移動させた。

その途中で何度か椅子に頭をぶつけてしまったが、私は痛くないので気にしない。

 

壁に寄り掛からせるような体勢をとらせ、他の半昏睡状態の同盟ファミリーの面々をしばし観察。

誰も睡眠薬に耐性など持ってはいないようだった。騒がれる心配も無い。

 

 

後はハル達をこっちに呼んで、この男を運び出せば―――

 

 

私はバッグに入れた携帯を取り出してハルの短縮を呼び出す。

と、その時。

 

 

何故かは分からない。でも、携帯の画面越しに視界に入っていた部屋の奥に置かれた棚に目がいった。

 

上半分にはカップ、灰皿など日用品が並べられ、下半分は扉がきっちりと閉ざされていた。

どう見ても何処にでもある何の変哲も無い木製の棚だったが。

 

 

 

・・・・私はこういう時の勘は信じることにしている。杞憂であれば何の問題も無いのだから。

 

 

 

「何これ、開かない・・・?」

 

 

 

私はその棚の前まで近づいてしゃがみこみ、扉部分に手を掛けた。が、どうやら鍵が掛かっているらしい。

取っ手のすぐ上に鍵穴があるのを確認すると私は迷うことなく髪の毛に挿している黒いヘアピンを抜き取った。

 

ふっふっふ、鍵開け暦6年の私にこの普通の鍵が開けられない筈は無い!

 

今まで結構人様の家に侵入してきた私にとっては朝飯前の事。三秒待たずにその鍵穴は私の前に平伏した。

 

 

 

「よし、・・・と、中は・・・・うわ、多い」

 

 

 

その中はダンボールで詰まっていた。わりと小さなダンボール箱が上まできっちりと入れられている。

取り敢えず私はそのひとつを手に取ってみた。

 

が、中身は空。

 

拍子抜けした私は次から次へと箱を引っ張り出して確認していく。

しかし出す箱出す箱中身は空で、周囲に段ボール箱が散乱するだけだった。

 

 

(・・・全部空だったらお笑い草よね・・・)

 

 

苦笑しながら確認すること一分。のこり五個という段階になって漸く重さのあるダンボールに行き着いた。

 

 

 

「おっと。これが当たり、かしら」

 

 

 

何が入っているのか分からないので慎重にゆっくりとふたを開けると。

 

 

そこには。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――普通、有り得ないでしょうこれは!」

 

 

 

 

 

映画にでも出て来るような、デジタル時計付きの、コード線が大量に繋がれている、そう、所謂・・・・

 

 

 

 

『時限爆弾』

 

 

が、あった。

 

 

 

しかも表示されている時間は十五分。多分これが爆発するまでに残された時間なのだろう。

よく見るとコードが一本奥の方に伸びていて、完全に棚に固定されている。

 

投げ捨てる事すら、出来ない。

 

 

 

「嘘・・・・私、爆弾は専門分野じゃないって・・・!」

 

 

 

私に爆弾を解体する能力はない。爆弾そのものを遠くに捨てることも出来ない。

それに何故こんな所に爆弾が?私が来なければ今まさに取引中のはず。この部屋ひとつ吹き飛ばすには十分な・・・・

 

・・・・・そうだ。爆弾、といえば。

 

 

「っ獄寺隼人!」

 

 

 

今電話して解体方法を―――・・・否、それで間に合うか?もし解体不能の爆弾であれば時間の無駄である。

・・・・・なら考えるのは後だ。今すぐ皆に知らせに行って―――逃げるしかない。

 

十五分あれば、そして多少誰かを犠牲にすれば、何とか間に合うかもしれないから。

 

 

 

「道義なんて、言ってられるか・・・っ」

 

 

 

私は急いで立ち上がり、扉へと走った。だが直ぐに足を止めてしまう。

 

ドアのノブに手を掛けた瞬間に、響いた声。

 

 

 

 

――――それは確かに、ハルの、悲鳴だった。

 

 

 

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