最優先事項。

 

・・・私は、選ばなければならない。

 

 

灰色の夢

 

 

 

焦る心とは裏腹に、頭は冴えていく。

 

蹴り開けたい衝動を抑えて私はゆっくりと扉を開けた。

警備員はきっと会場の騒ぎに気を取られているだろうが、念の為に。

 

だがしかし、予想に反して、警備員は六人共私がこの部屋に入った時と全く同じ状態で廊下に待機していた。

 

 

今現在も防音完備のはずの会場の方から悲鳴や怒号が聞こえているにも関わらず。

 

 

 

(―――何・・・!?)

 

 

 

驚く私に六人全員が一斉に視線を向けてきた。

 

悪意と殺気の篭った、それ。そんなものを向けられる覚えは全く無いのだが。

そして男達は無言のまま、懐に手を入れそれぞれ銃を取り出し私の方へと構えた。

 

 

 

・・・・否、もういい。

 

私に銃口を向ける者は全て敵。誰であろうと、どんな理由があろうと、容赦はしない。

 

 

 

「時間も、無い事だしね・・・!」

 

 

 

腰を深く落として銃弾をかわし、髪から簪を引き抜く。

助走をつけ一番手前にいた男の喉にすれ違いざま何の遠慮も無しにぶっ刺した。

 

・・・・・あの感覚だと脊髄までいったかも。

 

沼の底から響いてくるような音をたて、男は倒れた。動く気配はない。

 

私は女だし、所詮素人だと思っていたのだろう。倒れた男を見て警備員達は驚いて一瞬手を止めた。

 

 

 

―――その一瞬で、勝負はつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイフを振って血を落とし、腿のスリットに滑り込ませながら私は苛立たしげに呟いた。

 

 

「・・・二分弱、か・・・駄目ね、私も」

 

 

私のドレスやショールは、深い色とはいえ普段と違って黒じゃない。血は目立つ。

出来るだけ返り血を浴びないよう考慮して殺すと、六人如きにいつもより時間がかかってしまった。

 

物言わぬ肉塊と化した男共を背に、直ぐに私は一番端の扉に駆け寄る。

 

そのままドアノブに手を掛け―――舌打ちをひとつ。

 

 

 

「また鍵・・・!?誰だか知らないけど、一体何の真似だかっ・・・」

 

 

 

言いながらも先程と同じ様にヘアピンでガチャガチャと、根性出して5秒で開けてやった。

 

そして開いた扉の先には――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず私はその臭いに眉を顰めた。

嗅ぎ慣れた、胸が悪くなるような臭いだった。

 

その時点で何が起こっているか、分かる。目の前に広がる光景が全てを表していた。

そして会場に居た人数の約4分の3位が、血に塗れて倒れていたとしたら。

 

 

(・・・そりゃ、私がやったあの事件には遠く及ばないけれど・・・)

 

 

 

地獄絵図、と。

 

そう呼ぶのが妥当だと・・・・・思う。

 

 

 

「・・・っそうだ、ハル・・・!」

 

 

 

頭に彼女の姿が浮かび、ハッと我に返る。幸いにも呆けていたのは一瞬だったらしい。

悲鳴が聞こえてから数分も経ってないのだ。絶対に生きているはず・・・・・!

 

探し続ける間にも、倒れている人々の方から苦しげなうめき声が響く。

会場の奥のほうでは未だに銃撃戦が行われているようだった。怒鳴り散らす声も聞こえる。

 

広い会場が幸いしてか、障害物も多く私に気付いた人間は誰も居ない。

 

 

敵は奥の方に集中しているようだった。私は素早く目を走らせ少しずつ奥へと移動していった。

ハル達の中でもカルロは長身だから見つけやすいはずだ。

 

 

最悪の可能性には目を瞑って、私は探し続けた。

 

 

そして遂に会場の隅で、横倒しになったテーブルに隠れるようにして座り込むハルの後姿を見つけた。

生きている。生きて、いるのだ。私はそのことにまず安堵した。

 

 

(・・・・でも、他の三人は・・・?)

 

 

その思考を遮ったのは、彼女の空色のドレスに所々咲いた赤い色。

私はその事に酷く動揺して彼女の処へ駆け寄った。

 

ハルは俯き、誰かに必死で話しかけているようだった。近づくにつれ、それが誰なのか、はっきりと見えてくる。

 

 

 

「・・・・・・・・・・カルロ・・・?」

 

 

 

それは、血で真っ赤に染まった腹部を抑えて、倒れている、我らが同僚――――

 

 

 

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