十年前、私は自分の無力さを嘆いて強さを求めた。
なのに何故、今、私は何も出来ないのだろう。
灰色の夢
半ば無意識に零れた名前。
その小さな私の声にハルは弾かれた様に振り向いた。
「・・・っさん・・・!ぁ、ど、どうしましょう・・・っどうしたら・・・」
泣いていた。
大きな目から、大粒の涙を流して、ハルは泣いていた。
「さん・・・っ、カルロさんが・・・!!庇って、撃たれて・・・!」
「!・・撃たれたって・・・、そんな」
庇って?・・・ハルを?――確かにそれは彼の仕事で。でも、何故。
混乱する頭を振り切って、私はカルロの傍に跪き顔を覗き込む。
・・・まずい、意識が混濁し始めている。
試しに脈も確かめてみたが、・・・・それはとても弱弱しいものでしかなく。
せめて止血をと腹部の傷に手を遣った。
でも。
「・・・・・・・・・・・・・っ・・・・」
「・・・・、、さん・・・?」
「・・・・・・・・・・・」
―――それは無駄な事なのだと、分かってしまった。
私は目を見開いたハルに対して、首を振る事しか出来ない。
カルロが受けた銃弾は少なくとも四発以上。そのうちの幾つかは内臓まで深く傷つけている。
致命傷だった。
どんな凄腕の医者がここに居たとしても・・・絶対に助からないだろう。
「嘘、ですよね?さん・・・・ねえ、さんっ!」
震えた声で何度も私を呼ぶハル。縋り付く様に右腕を掴んでくる。
私はその右手を固く握って一度だけ床を打った。
(嘘じゃない。どんな事をしても彼は絶対に助からない。私は彼を切り捨てて次の行動を取らなくてはいけない)
必死でそう言い聞かせる。迷う時間など残されてはいない。
私達が生きるために。その為に、今出来ることは。
「・・・ハル」
「え・・・?」
「状況を教えて。簡潔に重点だけでいいから・・・後二人の事も」
「っさ、何言って・・・今はカルロさんを、」
「ハル!」
「っ!」
押し問答をしている時間がなく、余裕もなかったので私はハルを怒鳴りつける事で強制した。
殺気ではないが、それ相応の気迫を込めて。
今までこんな経験などなかっただろう彼女にいきなり脅迫紛いの事をしたのは悪いと思っている。だが状況が状況だ。
ともかく私の真剣さが伝わったのか、ハルは何とか話し出してくれた。
「正確には・・わかり、ません。先刻まで、普通にパーティーで喋ってた人が・・・いきなり撃ってきて・・・
見た事のない顔でしたし、向こうのファミリーかと思ったんですが・・・・ここまでになると・・・」
「初めから紛れてたって事・・・?それにこの惨状、相手ファミリーだったらこんな風には――ほぼ無差別よ・・・・」
「・・・・・はい。・・・あの、それで、アレッシアは・・・嫌な感じがするって大分前下に様子を見に行ったんですけど、まだ、・・・・帰って来ないんです」
「下って・・・?まさか会場の外に・・・!?」
ちょっと待て。
外にはずっとあの警備員が居たはずだ。人を見て突然襲ってくるような連中が。
いや、そもそも鍵が掛けられたのは何時だ?
鍵を掛けた後に出てきた人間は殺すという決まりなのか・・・?
何にしても、彼女が今も戻ってこないのはおかしい。連絡もないようだ。
・・・・・それなら、彼女も今頃・・・・・?
「ジュリオは?」
「ちょっと前・・・・戦ってるうちに、逸れちゃって・・・・こんなカルロさん一人置いて動きたくなくて・・・会えずじまいです」
「・・・・・。ジュリオも動けない状態っていう可能性が高いわね」
「・・・・・・・さん・・・・」
私の予感としては―――――他の二人の生存は・・・絶望的、である。
そしてこの状況の理由さえ分からないままで。傷ついた同僚ひとりすら助けられない。
連れてくるべきではなかった。大切な・・・・仲間だったのに。
嗚呼、でも。
今更過ぎて、救いようが無い・・・・・・・