道を、開こう。

 

 

 

灰色の夢

 

 

 

 

ボンゴレ本部最上階、ボスの執務室にて。

 

 

 

「・・・・・・・・・・はぁ・・・・」

 

 

 

重々しいというか、重苦しいというか。ボスの執務室は、そんな嫌な空気に包まれていた。

また、多少の間隔を置いて響くため息が、それを更に助長させていた。

 

言わずもがな、ボスである。

 

 

 

「・・・これで62回、だな」

「数えんなよ・・・・」

 

 

 

三浦ハルがパーティー会場に居る、と報告を受けたボスは慌てふためいてとにかくに電話するよう言った。

態々スピーカーホンにしてその会話を聞き、『Xi』の仕事に関っていないことを確認して電話を終えたはいいものの。

 

心配なのはわかる。

 

わかるが、こうもずっとため息ばかり吐かれていては全員の士気が下がってしまう。

 

山本は呑気にそれを数えて気を紛らわせているし、獄寺はなるべくそれに意識を向けないようにしている。

雲雀は我関せず――を貫いてはいるが、不快な顔を隠しもしない。

 

それに気が付いているけれど、ため息を止められないボス。ぶつぶつと何事かを呟いていて、正直不気味である。

 

 

 

「・・・・やっぱり帰してもらうべきだったかな・・・いやでもそれじゃ公私混同・・・・ハルの人間関係がマズくなるのは

本意じゃないし・・・・だからそもそも・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 

 

 

当分そっとしておいた方が良いかもしれない。山本と獄寺は、お互い目を交して頷きあった。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

 

 

 

「・・・

「え?」

 

 

 

怪我人二人そっちのけで自分の考えに耽っていた私は、罪悪感に満ちた声で呼ばれて我に返った。

カルロが沈痛な面持ちで必死に此方に顔を向けている。

 

 

 

「っ・・・・・・あんまり動いちゃ駄目でしょうがこの馬鹿」

「・・・・悪い、な。仕事・・・途中で・・・」

「聞けよ話」

「うるせー・・・死に際なんだから好きにさせろよ・・」

「・・・・・・・・」

 

 

 

それこそ、うるさいと黙らせてしまいたかった。

遺言など、聞きたくもなかった。

 

それでも私には―――その義務が、ある。

 

 

 

「貴方達の仕事は、ハルを守ることでしょう。・・・・ハルは、無事だわ」

「・・・・いいのかよ、それで」

「『これ』は、想定外。・・・充分よ」

「・・・そうか・・・」

 

 

 

ハルの事を、頼んだのは私。部長を見ていろと言ったのも、私。

部長はどうなったかわからないが、大事なのはハルが無事であったこと。

 

彼らは十分その役割を果たした。私とは違い、ちゃんと仕事を終えたのだ。大きな犠牲を払ってでも。

 

安堵したようにぎこちない笑みを浮かべるカルロから、私はふと目を逸らす。

見ていられなかった。今まで、人が死に逝く様など吐いて捨てるほど見てきたというのに。

 

 

(・・・ああ、もう本当に私は)

 

 

首を振って、私は立ち上がる。ハルはまだジュリオの手当てをしていて、こちらに注意を払っている様子は無い。

無駄だから止めろと言う気にはなれなかった。私は私の仕事をする。彼女は彼女の思うままに。

 

部屋の奥を見据えながら、最後にカルロに問いかけた。

 

 

 

「・・・何処がいい?」

「・・・?何が?」

「墓。三人纏めて作ってあげる」

「・・・・・・お前な、そういう事言ってる場合か・・・・?」

「骨は拾えないだろうけどまあないよりマシでしょう。で、何処がいいの10秒以内に言え」

「・・・・・・・。・・・・・海が見渡せる所」

「・・・・ふうん。似合わないけど」

「うるせ・・・」

「ま、了解ってことで」

 

 

 

私は緩く笑った。何をロマンチストな、と思わないでもなかったが。

 

・・・アレッシアが、海がとても好きだった事を知っているから。

 

 

 

 

――必ず、生きて此処を出て、三人の墓を作ってやる。

 

そしてハルと一緒に其処へ行って花でも酒でも供えてやるのだ。絶対に。

 

 

 

私はナイフを取り出し、部屋の奥でまだ戦っている敵に向かって走り出した。

どうせ、会場の人間を適当に動けなくさせて、彼らだけ爆発前に下へ降りるのだろう。だがそんな事は許さない。

 

少なくとも二人の仇は、今そこに居るのだから。

 

 

 

「・・・すぐに終わらせてあげる」

 

 

 

後悔する時間など与えてやるものか。

 

 

 

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